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?. まとめ

 

中国の雲南省に発し、インドシナ半島を縦断するように流れる大河メコン川には、ラオス南部のコーン島付近からカンボジア北東部のクラチエ付近までの2百数十キロの沿岸に限ってメコン住血吸虫症が流行している。このメコン住血吸虫は中国やフィリピンにみられる日本住血吸虫とは中間宿主貝が異なる以外は感染経路や病理、病害などはほぼ同一である。

1970年に始まるロン・ノル将軍のクーデターからポル・ポトの台頭、ベトナムによる侵攻、内戦と続いたカンボジアでは最近まで本症に関する調査研究が行われず、やっと1989年になってMSF「国境なき医師団」が住民の感染状況の調査と集団駆虫を始めた。WHOはこれまで治療剤「プラジカンテル」6万錠を保健省に送り、ただ1名の短期コンサルタント(ラオス保健省・Dr.Khamliane Pholsena)を派遣するのみにとどまっていた。

WHO/WPROの非公式打診とカンボジア保健省の要請により、財団は1997年6月17日から2週間、寄生虫対策援助計画の実現可能性の調査団をカンボジアに派遣した。調査団はプノンペンの保健省において次官のDr.Mam Bunhengと会談し、「この国の住血吸虫症は東北2省、Stung Treng省とKratie省の公衆衛生上重要な風土病であるが、MSF以外に国際的協力は得られず、是非財団の協力を得たい」旨の要請を受けた。さらに、住血吸虫症とその他の寄生虫疾患対策を管掌する国立マラリアセンターでは、副所長で全国住血吸虫症対策の総責任者でもあるDr.Socheatらから本症の現状と対策について説明を受けた。また、プノンペンからメコン川を船で6時間遡上し、クラチエ省の流行地を視察した。省衛生部のカウンターパートと検査室施設、ならびに環境、保安状況など問題点はなく、この国の住血吸虫症対策協力計画の意義と実行の可能性が認められた。

カンボジアの住血吸虫対策援助計画の第1回専門家として、安羅岡一男、松田肇、桐本雅史が1998年1月31日-2月21日の期間派遣された。彼らはプノンペンにおいて保健省、国立マラリアセンター、WHO代表部を訪問し業務の打ち合わせ後、クラチエに向かい、2月3日から15日まで現地に13日間滞在した。クラチエの上流約50kmのKampong Krabeiから、クラチエの下流約40kmのHanchey Leuまでに点在する6村落の小学校で低学年児童合計353名から血清疫学調査用の採血を行った。また、クラチエ近傍のメコン川に竹の筏を浮かべ、その上に家を作って住んでいる、いわゆる“floating village”のベトナム人住民合計21名からも採血した。これらの血清標本について現在獨協医科大学においてELISAなどの血清学的検査を行っている。SamboHealth Centerの病院では19歳と27歳の二次性徴を欠如する男は慢性重症患者2名を観察した。中間宿主貝が生息すると思われるKampe付近で数日間にわたって貝を検索したが、Neotricula apertaのgamma raceは採集されなかった。この貝は3月下旬に出現すると思われる。

 

 

 

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