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に急進的・観念的になる傾向がある。いずれにせよ、エカテリンブルク市とウラジオストク市の高等教育機関、アカデミー機関に勤務するインテリ党員は、スヴエルドロフスク州と沿海地方の共産党体制が全国に先駆けて1990年春に崩壊する上で大きな役割を果たしたのである。

他方、スヴェルドロフスク州も沿海地方も、未開の低開発地帯、過酷な自然条件下の農業地帯、いまだに囚人労働に頼っているような資源採掘現場(ナズドラチェンコもまさにそのような鉱業企業経営者の出身)を多数抱えている。概してロシアでは都市と農村の間の生活条件の格差が著しいが、この2リージョンについてはそれが極端な形で現れているといえよう。この生活条件の違いが政治文化の違いに反映する。この政治文化の二極分化は、両リージョンにおける共産党体制があっけなく崩壊してしまったことの一つの原因である。つまり、農村部で働いている共産党第一書記たちは、スヴェルドロフスク市(当時)やウラジオストク市のインテリ党員がいったいなぜ不満なのか理解できなかったのである(もちろん、こうしたインテリ自身、当時の自分が何に腹を立てていたのか既に憶えていないだろうが)。共産党貴族の子弟育成機関であったモスクワ国際関係大学出身で、失脚後は在サンフランシスコ・ロシア総領事となった前知事クズネツォフと、事実上中等技術教育しか受けられず高等教育資格は「通信教育で(zaochno)」(35)取ったナズドラチェンコとは、沿海地方というヤヌスの二つの顔を代表しているのである。

 

(5) 政治の進歩性と犯罪性

 

スヴェルドロフスク州にはない沿海地方の特徴は、ウラジオストクが国際的な海港都市であることである。ウラジオストクが閉鎖都市であったのはあくまで外国人が入れなかったという意味であって、そこに住む船員・漁師は、共産主義時代から外国を見る機会に恵まれており、このこともウラジオストクの進歩性に寄与した(36)。国際的海港都市であることの裏面は、共産主義時代から「裏の世界」「裏の資本」が発達していたことである。既述の資源採掘産業が「裏の世界」との結びつきを必然的に生み出す構造であることと併せ、ウラジオストクの国際性は、クライと市の政治がポスト共産主義ロシアの基準に照らしてさえ著しく犯罪性と暴力性を帯びる原因となったのである。

沿海地方における政治の犯罪化を促進する要因としては、まず、クライにおいて組織的犯罪そのものが多いこと、つまり「任務遂行者」の予備軍に不足はないことがあげられる。沿海地方は、犯罪の発生率においてトゥヴァ共和国に次いで、全国2番目の位置にある。「人口10万人当たりの登録犯罪件数は、全ロシア平均

 

 

 

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