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裁判所(名称は必ずしも同じではない)が設置され、ソ連崩壊後には旧ソ連諸国でも同様の動きがみられる。立憲主義や法の支配を展望したときに、憲法秩序の擁護と人権の保障などを課題として憲法裁判所が構想された点は、旧ソ連、東中欧諸国にほぼ共通した現象であるだけに注目しておいてよい。時に緊張関係に立つこのふたつの課題を同時にかかげるところに、ドイツやアメリカの憲法裁判(前者は憲法裁判所により、後者は最高裁判所の違憲審査制による)のそれぞれに現代的変容をとげた特徴を吸収したものとみることもできるが、これら諸国の体制移行の特殊歴史的な性格に負うところ大であると思われる。したがって、共通項もあるが、それぞれに独自のものをもっていることを見落すことはできない(3)。

ロシアの憲法裁判所は、1978年ロシア共和国憲法(ソビエト型憲法)の改正によって実現したが、この憲法自体が相次ぐ改正と当時の政治的状況を反映して、その内部に憲法原理の矛盾・対立を孕んだものとなっていたなかで(いわゆる憲法のモザイク化)、大統領と最高会議の政治的対立の調停者として「政治的機能」を担いつつも、立憲主義の創造という役割をそれなりに果たそうとしたといえる。大統領による最高会議の解散という93年の9-10月事件に際して、この憲法裁判所は一時的にその機能を停止するが、憲法裁判所そのものは廃止されることなく、新憲法下で位置づけと装いを新たにして再出発することになる(4)。

1993年12月に制定されたロシア連邦憲法は、憲法裁判所を次のように位置づけている。

まず、合憲性審査の対象としては次のようなものが予定されている。

? 連邦の法律、ならびにロシア連邦大統領、連邦会議、国家会議およびロシア連邦政府の法令

? 共和国の憲法、ロシア連邦の構成主体(共和国以外の)の憲章、ならびにロシア連邦の国家権力機関の管轄およびロシア連邦の国家権力機関とロシア連邦の構成主体の国家権力機関の共同管轄に属する問題について制定されたロシア連邦の構成主体の法律およびその他の法令

? ロシア連邦の国家権力機関とロシア連邦の構成主体の国家権力機関のあいだの条約、ロシア連邦の構成主体の国家権力機関相互のあいだの条約

? 発効前のロシア連邦の条約

さらに、国家機関相互間の紛争についてもその解決の権限を与えられている。

? 連邦国家権力機関相互のあいだの紛争

? ロシア連邦の国家権力機関とロシア連邦の構成主体の国家権力機関のあいだの紛争

? ロシア連邦の構成主体の最高国家機関相互のあいだの紛争

 

 

 

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