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対外的な存在主張と対内的な一体性の確立のために、中央政府は画一的で、効率的な統治を目指そうとし、そのために集権的な制度の構築を図る。他方、地域社会は、固有のアイデンティティに基づいて自立を求め、分権的な制度を要求する。しかし、分権的な制度の下では、地域間の資源分布は均衡を欠いており、そのために財政的な格差が拡大すると、今度は、国全体としての発展にアンバランスが生じる。このような事態を回避し、バランスのとれた発展を図り、ナショナル・ミニマムを保障しつつ、効率的な行政サービスを供給しようとするならば、そこにはどうしても中央政府による調整、なかでも財政調整が重要な役割を果たさざるをえず、それは集権的な統制を伴うことになる。

このような観点から本調査研究の対象諸国をみると、いずれの国でも、地方自治体が自主財源のみで行政活動を行うことは困難であり、地方自治体の財源に占める中央政府からの財政移転の比率は、日本のそれよりもはるかに高い。しかし、比率としては多くを中央からの財政移転に頼っていても、なおこれらの国の地方自治体は、充分に事務経費を賄うことができず、ハンガリー(第5章・月村報告)の例でもわかるとおり、保有資産の売却などによって何とか財源を確保している状態である。

その原因としてはもちろん、事務権限の配分と見合わない税財源の配分という、制度そのものの不備もあるが、仮に、事務権限に見合う財源を地方自治体に移譲したとしても、その拡充された自主財源ですべての地方自治体が充分に事務経費を賄えるようにはならないだろう。それというのも、財政力の都市と農村の間の格差、すなわち課税客体の都市部への偏在という地域間格差が著しいからである。

したがって、現実には、これらの国々においては、格差が大きいため、税源を移譲し、自主的財源だけで地域の行政活動を実施する制度を構想することは非現実的である。それよりも、公平でなおかつ効率的な財政調整制度をいかに構築し運用するかが検討されるべきであるが、そのような制度の下での中央政府による毎年度の財政調整は、そのときの財政事情によって変動するため、それをめぐって中央と地方の関係が政治化し、政治家や官僚によるネゴシエーションの余地が増大し、中央地方間に政治的抗争が多発することになりかねない。

そこで、中央地方間の紛争解決の制度が必要となってくるが、安定した権威ある裁判制度等が存在し有効に機能していればともかく、そうでない場合には、紛争解決のための制度の構築事態が政治的課題となる。第2章(竹森報告)で詳しく述べられているように、ロシア連邦では、憲法裁判所がこうした政府間の紛争を処理する機関としての役割を果たしている。しかし、この憲法裁判所による判決が、今後の地方制度を規定する要因となるかどうかは、ひとえに憲法裁判所自体に威厳ないしは権威が確保されているかどうかにかかっているといえるだろう。

 

 

 

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