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第1章 調査研究の視点:基礎自治体の自己編成力をめぐって

     〜資源・制度・創造的合意形成〜

 

1 はじめに:分権化と基礎自治体の充実

現在、地方分権化の動きが進んでいる。それなりの経済的豊かさを達成した今、より豊かな生活を実現するには《地域社会づくり》が欠かせない。分権化の背後には、このことを人々が自覚するようになってきたという事情がある。豊かな地域社会づくりは、地域がそれぞれの実情に応じて創意・工夫・努力しなければならないし、それを促し支援するような地方制度を必要とする。

生活の豊かさは、経済力に支えられた高水準の個人消費だけでは不充分である。人々が生活場として共有する社会システムそのものが豊かにならなければ、真の豊かさは実現しない。確かに、社会・経済・産業のための国家レベルのインフラは整ってきた。また、地域社会レベルでも全国共通に必要とされるような標準的行政も整ってきた。しかし、日常生活に密着した基礎自治体・市町村レベルの地域社会システムはいまだきわめて不十分な状態にある。特に、景観や安全も含めた生活空間のありようは豊かさからほど遠い。また、高齢者介護を中心とした地域福祉システムは今やっと構築が始まったばかりである。いくら経済力がつき個人消費の水準が上がったとしても、生活と密着した身の回りの空間環境や社会的仕組みが充実していなければ生活の豊かさを実感できない。生活の空間環境を整備する《まちづくり》と人間らしい生活を支える《地域福祉システムづくり》がハード・ソフト噛み合って豊かな《地域社会づくり》となる。このような《地域社会づくり》はいうまでもなく基礎自治体の課題である。しかも、《まちづくり》は公私の諸事業を編成・統合して都市計画として推進しなければ実効が上がらない。また、《地域福祉システムづくり》では、それぞれの人のニーズに適応した保健・医療・福祉の適切な組み合わせを提供できる柔軟な統合的システムが要請される。こうした地域社会づくりは中央政府主導による画一的遂行になじまないし、非効率ですらある。地域の実情に応じた創意・工夫・努力によって行政を再編・統合することこそが要諦となる。

われわれは、基礎自治体の充実なくして、生活の共有基盤である豊かな地域社会システムを実現することはできない。しかし、現行の地方制度はもはや限界を露呈している。

 

 

 

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