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■事業の内容

〇海外における船用機器等の検査に関する調査研究
(1) 概 要
  円高の定着、規制緩和等により、最近とみに外国製の船用機器等の我が国への流入の機運が増加している。一方、社会的な要望により規制緩和の流れを受けて、我が国の船用機器等に係わる検査制度についての見直しも検討が進められている。今後の見直しによって検査制度及び運用の変更が行われた場合には、関係事業場において新しい検査制度への対応によっては当会員の事業の存続に大きな影響を与えかねない重要な問題となる。
  このため、最近の諸外国における船用機器等の検査及び品質管理状況等を調査、比較検討し、関係企業の将来の経営基盤の安定・強化を図るに必要な対応資料の提供を行うことを目的とする。
  このような目的のもと、昨年度の西欧諸国に続き、本年度はアメリカ、カナダ及びパナマの3カ国の船用機器等の検査の制度について調査した。
(2) 調査対象地域及び事業場
  調査対象としては、先ず3カ国の船舶検査制度関係部署を最優先し、その他本調査に関して知識、関心を有すると考えられる企業、試験機関等を列挙し、訪問のアポイントが取れること、出張日程、コースが無理なく組めること等を考慮して決定した。
  都市名         訪問先及び所在地            備 考
 オタワ       Transport Canada             カナダ国運輸省
 (カナダ)
 セントジョージ   Saint John Shipbuilding Limited     造船所
(カナダ)
 ワシントン     USCG                  米国コーストガード
 (米国)      Commandant
          U.S. Coast Guard  
 ニューヨーク    American Bureau of Shipping       船級協会
 (米国)      Directrorate of Consular and Maritime  パナマ国海事安全部
           Affaires
           New York, Representative Office
           Republic of Panama
           Underwriters Laboratories Inc.     試験研究所
 デトロイト     Detroit Diesel Corpotation       エンジンメーカー
 (米国)
 パナマ       de Naves
 (パナマ)     Republica de Panama
           Panama Marine Atrantic & Pacific Co.  いかだ整備事業場
(3) 調査内容等
  基本的事業として、次のa〜gについて調査することとし、訪問先によっては当該組織に応じた質問事項を追加することとした。調査にあたっては、先ず書簡により質問書を送り、併せて訪問先の選定、アポイントメントの取得に努力をした。
 [1] 主な調査事項
  a.船舶安全のための構造・設備に関する規制法
  b.検査機関
   (a) 国の検査実施機関(組織図)
   (b) ABSとの分担と根拠法令(米国の場合)
   (c) 他国の船級協会の扱い
   (d) 船級協会以外の検査機関
   (e) 他国政府又は検査機関の試験成績・証明書類の扱い(認定)
  c.形式承認等、検査の合理化関連制度
  d.以上の法令、制度の今後の改正、緩和等の方向
  e.業者側から見た検査制度への意見(他国に関するものも含む)
  f.業者側から見たISO9000S、CEマーク、ISO14000Sへの意見の取り組み
  g.カナダについては、救命設備の着氷防止等の寒冷地関連技術
 [2] 調査員(3名)
   国際化工(株)         長谷川企画部長
   (社)日本船舶品質管理協会  関技師長
   (社)日本船舶品質管理協会  安部指導技師
 [3] 調査期間
   期 間:(平成8年10月21日〜11月3日)
   訪問日       訪問先      訪問調査員
   10月22日  Detroit Diesel Corp.               長谷川、安部
   10月23日  Canadian Coast Guard               長谷川、関、安部
   10月24日  Saint John Shipbuilding Limited         関、安部
   10月28日  UL(Underwriters Laboratories)          長谷川、関、安部
ABS(American Bureau of Shipping)         長谷川、関、安部
   10月29日  PANAMA国NY事務所                  長谷川、関、安部
   10月30日  U.S. Coast Guard                  長谷川、関、安部 
   10月31日  パナマ領事・船舶局                 関、安部
         イカダSS(Panama Marine Sefety & Supply)     関、安部
   11月1日  イカダSS(Panama Marine Sefety & Supply)再訪問  関、安部
(4) 調査結果の概要
  本調査実施の間、米国の船舶検査制度については運輸省海上技術安全局からも情報を得ていたので、その資料も参照して報告書にまとめた。以下に要約する。
  米国には合衆国法典(US Code)と連邦規則(Code of Federal Regulations-CFR)があり、“47CFR”が電波通信関係規則で、これらは東京アメリカン・センター資料室に行けば閲覧できる。
  船舶検査の担当組織はもとより沿岸警備隊(USCG)であり、検査官はOCMI(Officer in Charge, Marine Inspection)と称し、米国内42カ所のほか、海外の支局にも駐在員としている。この検査官は船舶検査のみを任務とする者もあるが、通常は他の任務を兼務する。
  合衆国法典では船舶検査を船級協定に委ねる事ができるとされ、その対象はABSのみに限定されていないが、結果的にはABSのみである。(トン数と満載喫水線に関してはDNVを認めている)ABSに委ねる範囲は、トン数測度を除き我が国と類似しているが、現在その拡大が検討されている。船舶の検査期間はUSCGとABSのみで、日本の小型船舶検査機構のようなその他の機関はない。無線設備に関しては、連邦通信委員会(FCC)が単品検査から船上での検査まで実施し、USCGはその確認のみする。
  検査の合理化策の一環として現在具体的に検討されているのは、SOLAS条約第9章「国際安全管理コード」(ISMカード)の採り入れと、自主検査制度の採用、そしてABSへの検査委任の拡大である。自主権差制度(self Inspection Program)は“Streamlined Inspection Program”-“SPI”と称し、2年ほどで明らかになるとのことで、これによるとUSCGとABSは共に監督業務を主とするものとなる。ISMコードの船社及び船舶の管理プログラムの審査機関としては、当然ながらABSを指定している。
  消火器などは、法定必要数量以上に搭載するもの(余剰設備)も、非検査船に搭載するものについてもUSCGの承認品を使うこととしている。一方携帯用の消火器についてはUSCGの規格を廃止し、UL規格を採用している。
  当協会として関心のある膨張式救命いかだの整備事業場の認可は、製造メーカーの申請が基本である。我が国のサービスステーションが承認されるためには、米国の承認品のメーカーのライセンスを受け、メーカーに承認申請して貰うことになる。
  型式承認の対象が、外国製品にも拡大され、その対象品目はABSの型式承認物件一覧から知ることができる。
  1996年の法改正により、今後2年間で船級協会への検査の移管が実施されるとのことであるが、目下の最大の急務はISMコードの適用であろう。SIPと共に、この内容が明確になるには、2年ほどかかるとのことである。
  カナダの船舶検査の担当部署は、本調査を始めた当初はカナダ・コーストガードであったが、行政組織の改編によりコーストガードは消滅し、職員は運輸省内各部門及び漁業海洋省のプレジャーボート検査部門に移った。組織改編は現在も続けられ、将来図は不透明である。
  カナダにおける船舶の構造・設備を規制する法律には“CANADA SHIPPING ACT”と“CANADA ARCTIC WATERS POLLUTION PREVENTION ACT”がある。極寒の海を領海とするカナダだけに、氷海域を航行する船舶に対する「北極海汚染防止法」は世界でも稀なもので、カナダの領海内を航行する船舶に対して季節、水域毎に細かなグレードが設定されている。
  海外への出張検査は原則として行わず、船級協会の試験検査成績を活用する。中国、ロシア、ポーランドの船級協会を除く5〜6の主要船級協会の検査を認めているとのことであったが、我が国におけるNKほどに検査項目を委任しているのはABSとLRのみかと推察される。SOLAS条約証書、満載喫水線証書、汚染防止証書等の発給の権限を全面的に船級協会に付与している。カナダ商船隊のうち、船級を有するのは8%程度であり、船主が積極的に船級協会を活用するためには検査料金が問題になっているようである。
  書簡での質問への回答では、必要な法令改正は、93年に終えているとのことであったが、検査制度に関しては今後も大幅な改正があると考えられる。船舶検査の船級協会等、民間機関活用の方途については米国コーストガードと定期協議を有しており、USCGの影響をかなり受けることとなろう。目下の注目される制度改革は、米国と同様ISMコードの実施である。
  パナマは在籍船舶隻数は約13万隻、10億総トンに達するが、世界の伝統的海運・造船国ではない。しかし世界の主要船級協会等を活用して、国際的な取り決めは遵守するべく真面目に努力していると言われる。船舶検査、登録の担当部署は、財務省、領事・船舶局であるが、検査の実務は同国のニューヨーク事務所・海事安全部が取り仕切っている。
  パナマが船舶の総トン数の測度及び安全検査を活用している機関は、ロシアの船級協会を除くIACSメンバーとギリシャの船級協会、そして同国の船級協会を含む企業3社の14機関である。ISMコードの船社及び船舶の管理プログラムの審査機関としては、ロシアおよびポーランドの船級協会を除くIACSメンバーとギリシャの船級協会の10協会を指定している。
  船舶検査官として約300人擁しているが、フルタイムで雇用されているのは30人程で、他はパートタイムである。検査官はもとキャプテンや船級協会のサーベイヤー等で、所謂PSC的な検査を実施し、その人件費は年間100万米ドルに達する。
  基本的な法律はあるが、SOLAS条約の改正等は、商船回章(Marchant Marine Circular)で船級協会等に流し、適用している。1996年9月には、93年SOLAS決議書A.739「行政の業務を代行する業者の承認に関するガイドライン」に沿って改めて証明手続きに関する規則を定め、通達しており、また同年月日、ISMコードの適用に関する通達を“Marchant Marine Circular No.95”として通知している。
  UL(Underwriters Laboratories)は当協会の艤装品研究所に似た試験所で、本来電気器具、消火設備を専門としたが、その規格の政府公認は拡大していると窺われる。
  Detroit Dieselは米国GM系列のメーカーで5PS〜1万PSのエンジンを製造し、約50%はトラック用である。日本には400〜2,400PSの船用エンジンを年間数十台輸出している。
  セントジョージ造船所はカナダ最大の造船所で、最近10年間は主に艦艇を建造していたが、今後は商船を建造しようとしており、パナマックスタンカー等の建造のために一個1,200トンのブロックを吊り上げ、運搬する工場に改装中である。
  パナマ唯一の膨張式いかだSSの年間整備台数は月に25〜35台で、うち日本製は4〜6台である。我が国の製品では藤倉ゴム工業、東洋ゴム工業、三菱電機の3社の整備ライセンスを取得している。

■事業の成果

アメリカ、カナダ両国とも、船舶検査制度の変革は今なお途上にある。またその法令改正の動向を知るためには、回答によると両国ともインターネットでアクセスするのが早い。パナマは膨大な在籍船舶隻数を有して、IMOの規制に即応すべく、本国及びニューヨーク事務所から通達を出している。
 本調査により、3カ国の船舶検査関係法令、船舶設備検査制度の骨格が把握出来ると共に、検査制度担当部局の組織、最近の通達の状況等も把握出来た。本事業の報告書が当会会員、船舶関係団体並びに船舶用機器、設備製造事業者に周知されることにより、彼我の検査制度の相違への理解、通商取引やOEM生産の意欲向上と円滑化に資することが期待される。





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