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■事業の内容

(1) まえがき
  本調査ではディーゼル主機関の運転状態・故障のモニタリング機構、診断機能および予知機能を有する内航船用機関分析システム構築のため、種々の技術・手法の実現性を評価すると共に、技術的課題を明確にし、機関分析システムの実現に必要な研究項目を抽出した。
(2) 実施内容
 [1] 内航船の機関分析システムの現状技術レベルの調査
  〇調査の方法および内容
  a.内航船業界の現状調査
   船舶輸送量、船腹量、内航船員数、近代化の現状等、内航船業界の動向について調査を実施した。
  b.アンケートによる機関分析システムの開発要件調査
   船舶の利用者である船主および乗組員、内航船のディーゼル主機関メーカーおよび主に内航船を建造する造船会社を対象にアンケート調査を行い、内航船用機関分析システムの開発要件をまとめた。
  c.ヒアリング調査による機関分析システムの開発要件調査
   船主および内航船建造造船会社を対象にヒアリング調査を行い、アンケート調査の補完調査を行った。
  d.海難事故等の調査
   海上保安庁統計および海難審判庁統計を調査し、内航船の事故の現状の調査を行った。
  e.船舶整備公団、船舶検査機関の動向調査
   船舶整備公団の近代化基準、船舶検査機関の船舶検査規定等の動向について調査を行った。
  f.機関分析システムの研究開発状況の調査
   機関分析システムの開発・販売会社の開発の現状および学会・団体等の研究論文等の文献調査を行った。
 [2] 内航船用機関分析システムの開発課題の抽出
   アンケート調査を初め種々の調査結果を基に、機関分析システムのニーズを考慮した機関分析システムの概念検討を行い、現状の技術レベル、実用性の観点から開発課題の抽出を行った。
  a.調査結果に基づく機関分析システムの要件
   アンケート調査、ヒアリング調査、海難事故調査、文献調査等を基に、開発すべき機関分析システムの開発要件の抽出を行った。
  b.機関分析システムの概念検討
   調査結果に基づく機関分析システムの開発要件の分析対象、診断内容、計測項目、センサー等について概念検討を行い、機関分析システムを開発する場合の問題点と開発課題の抽出を行った。また、内航船用機関分析システムの実現を想定した機関分析システムの概略構成を作成した。
(3) 委員会の開催
  開催日及び主な審議事項
 (調査委員会)
  〇第1回 平成8年6月25日(火)
   1)平成8年度事業計画について
   2)平成8年度事業実施計画(案)について
  〇第2回 平成8年9月4日(火)
   1)平成8年度事業実施経過について
    ・アンケート調査中間報告
   2)今後の実施予定
  〇第3回 平成8年12月11日(水)
   1)平成8年度事業実施経過について
    ・アンケート調査中間報告
   2)今後の実施予定
  〇第4回 平成9年3月3日(月)
   1)平成8年度事業報告書(案)について
 (作業部会)
  〇第1回 平成8年7月10日(水)
   1)平成8年度事業調査方法について
   2)平成8年度事業調査計画について
  〇第2回 平成8年8月23日(金)
   1)平成8年度事業実施経過について
    ・アンケート調査中間報告、進捗報告
  〇第3回 平成8年10月25日(金)
   1)平成8年度事業実施経過について
    ・資料調査、アンケート調査中間報告
  〇第4回 平成8年11月25日(月)
   1)平成8年度事業報告書(案)について
    ・アンケート/ヒアリング調査中間報告
   2)平成8年度事業報告書の構成について
  〇第5回 平成9年2月18日(火)
   1)平成8年度事業報告書(案)の検討  

■事業の成果

(1) 事業の成果
  内航船を取りまく環境は、貨物の海上輸送量が増大する中、競争力維持のため、船舶の大型化、高速化を図り、しかも、少数船員による運航を指向している。
  他方、船員の需要自浄は標準的な若手船員不足に加え、就労船員の高齢化は避けられず、労働力の確保と、運航技術レベルの維持は船主にとって最も重要な課題となっている。また、船舶の安全運航は、至上命題であり社会的要請である。
  平成7年度海上保安白書によれば、平成6年度1年間について、事故による要救助船の隻数は1,700隻に達し、その事故原因は、運航の過誤・機関取扱不良等人的要因が約70%を締めると分析している。海難事故の発生は、人的被害、船体貨物の損傷・喪失といった直接被害に加え、タンカーの漏油事故に見られる如く、致命的な環境破壊をもたらし、社会的被害は計り知れないものがある。
  その様な環境下にあって、安全運行を達成するために、乗組員の運航技術を補完し、船舶の保守管理に資するシステムの開発は必須条件である。
  本調査は、内航船を対象に機関プラントの安全な運行管理と適切な保守管理を可能とする「内航船要機関分析システム」について調査を行った。
  本事業の成果は以下のとおりである。
 [1] 船主、乗組員は現在装備されている機関分析システム(モニタリングシステム)については不十分との認識がある。また、船員不足、高齢化、若年労働者不足等の人的な要因に問題があり、それらの対応策として機関分析システムが必要との認識が船主、乗組員、造機会社、造船会社の内航船の置かれた状況を改善できる機関分析システムの開発が必要である。
 [2] 内航船用機関分析システムの採用条件は、「費用対効果が明確で省力化が立証されること」、「誤作動、誤警報、故障等が少なく信頼性・耐久性が良いこと」、「操作が簡単であること」が必要条件である。
 [3] 内航船機関分析システムの購入価格はほぼ数トン数あたり1万円に相当する額を想定している。例えば、500総トン数の内航船では約500万円である。
 [4] 「機関分析システム」の内容としては、診断および予知機能を有することを要件としている。診断および予知のアイテムとしては、「燃焼状態の把握分析」、「ピストンシリンダライナ摺動部の状態把握分析」、「クランク軸等回転部分の状態把握分析」であり、これらの情報より主機関運転データの全体把握分析を可能とする内航船用機関分析システムが要請されている。
 [5] 海難審判庁の機関関係の海難実態調査結果においても内航船に必要な機関分析システムの内容、機能等が推定できる。
   機関の海難事故ではシリンダライナ、ピストン、クランク軸系の事故が多く、機関分析システムの分析対象と合致している。また、調査結果は予知機能が必要であることを示唆している。
 [6] 大学等の研究および機関分析システムの開発・販売会社を調査した結果、船主ニーズを充足し、内航船に最適な機関分析システムは実用レベルで普及していないのが現状である。診断機能、予知機能を有した実用的な分析システムは開発段階にある。
 [7] 公的機関の動向
   船舶整備公団では機関分析システムの導入を推奨し、安全運行の支援装置を図っている。
   また、(財)日本海事協会にあっては、外国籍船の場合であるが機関状態監視システム(当調査研究の機関分析システムと主旨が合致している)を設置することにより、機関の解放検査機関の延長を可能とする措置がとられようとしている。国内船に関してもこの規則が適するように現在作業中である。
   このように機関分析システムの導入が期待され促進されるような社会的環境になりつつある。
 内航船用機関分析システムに関する現状調査と研究開発状況の調査を踏まえ、内航船用機関分析システムを実現するための技術的問題点の整理とその解決すべき開発課題についてとりまとめを行った。船舶の海難事故は、その直接被害にとどまらず想像を絶する規模の洋汚染に例を見る如く、一地域一国に留まらず社会的影響を及ぼす。内航船にあっては乗組員の高齢化、船員不足等によって安全運行が阻害される問題を包含している。
 国内物流の大きな役割を担う内航海運が今後とも発展していくためには、船舶の安全運行は至上問題であり、船舶の推進に直接影響する機関プラントについて安全の運航管理・保守管理が可能な内航船機関分析システムの開発が必要である。


   





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