日本財団 図書館


■事業の内容

(1) まえがき
  本研究開発では、高強度、高靱性、低摩擦、耐腐食性さらには亀裂発生や摩擦進行を検知する機能等の多機能を有し、安価なセラミック材料の開発ならびにシリンダーライナーやピストンクラウン等の大型部品製作のため、その基盤となる材料や製造技術について以下の様な研究開発を行った。
(2) 実施内容
 [1] 低コスト大型セラミック部品の製造技術の開発
  a.基盤材料となる高強度無収縮窒化珪素材料の開発
   焼結時に収縮を起こさない窒化珪素材料を基本として、その強度を上げる焼結助成剤組成、添加物、焼結温度条件等の検討を行い、低融点で窒化珪素粒子の成長を促進できる助剤について文献及び状態図から選定した。
   また、基盤材料となる高強度無収縮窒化ケイ素材料について、焼結助剤(MnO2)の量、焼結時間を変えた基盤材料を製作して、組織観察、密度、強度、破壊靱性の測定等、基盤材料の特性試験を実施した。
  b.補強材となる繊維材の特性(材質、繊維径、密度、形状)の特定
   既に開発済みの繊維の形状付与技術を基本として、シリンダー形状、ピストンクラウン形状に適する材質、繊維径、密度、形状等の検討を行い、窒化珪素繊維、炭化珪素繊維を選定し、含有酸素量、線径、表面処理の有無等を変えた6種類の補強用繊維材を選定した。
   また、窒化珪素繊維、炭化珪素繊維を選定し、その表面処理(窒素雰囲気中で加熱温度約1300℃)を行い、強度および耐熱性の測定等、補強用繊維材料の特性試験を実施した。また、耐熱温度を上げるための表面処理方法の検討を行った。
  c.基盤材と補強材との複合化技術の開発
   上記繊維体を基に、基盤材料の泥しょうを作成し、スリップキャスト形成を行い、繊維とセラミックの低コスト複合化の検討および泥しょう条件、スリップキャスト条件、乾燥、低コスト焼成条件の検討を行った。
   また、基盤材料と補強繊維材により泥しょうを試作し、低コスト複合化技術の検討を行い、基盤材料と補強繊維材によりスラリーを試作し、pHおよび解膠材を変えて粘度調整を実施した。
  d.大型部品成形技術、焼結技術、研削技術の開発
   大型部品成形の第一段階として、小型部品形状での部品の設計検討を行い、小型形状部品を試作して大型部品を製作するための問題点を検討した。
   また、小型形状部品の試作用成形型の検討を行った。
 [2] 摺動部品(シリンダーライナー)および耐熱部品(ピストンクラウン)の大型部品試作
  a.シリンダーライナー材に適する低摩擦、低磨耗の表面創製技術の開発
   シリンダーライナー材の鉄酸化物複合窒化ケイ素焼結体の試験片を製作し、低摩擦、低磨耗材料の評価試験準備を行った。
  b.ピストンクラウンに適する耐熱、耐腐食性材料の開発
   ピストンクラウンの部品試作用成形型の検討を行った。
 [3] 委員会の開催(3回開催)
   開催日及び主な審議事項
   〇第1回 平成8年6月18日(火)
    1)平成8年度事業の実施計画について
    2)平成8年度事業の事業実施計画(案)について
   〇第2回 平成8年11月14日(木)
    1)平成8年度事業の事業実施経過について
     ・全体計画
     ・実施内容と開発目標
     ・開発のネックとその対応
     ・研究開発中間報告
   〇第3回 平成9年3月6日(木)
    1)平成8年度事業の事業実施計画について
    2)平成8年度事業の報告書(案)について

■事業の成果

(1) 低コスト大型セラミック部品の製造技術
 [1] 基盤材料の開発
   従来使われているSi3N4のセラミック原料粉末は5,000円/kgと非常に高価なため、より安価(400円/kg)やSi粉末を主原料として、強度が大きく信頼性の優れたSi3N4を作成する試みがなされてきた。
   しかし、従来の技術ではその様な材料の製造は難しかったが、今回、Si粉末を原料とし、低温で粒界相が形成されSiの窒化促進に有効なMnO2を添加したところ、新しいSi3N4材料が開発できた。この材料は、1,500℃の低い温度で焼結してもSi3N4粒子が柱状に成長し、高靱性でかつ、強度が目標400MPaを上回る480MPaを達成できた。
 [2] 補強繊維材の開発
   窒化ケイ素材を補強するため、長繊維を配置することとし、耐熱性の高いSi3N4系およびSic系の繊維を補強候補材とした。また、繊維材が複合材としての効果を発揮する様に表面処理を行い、耐熱性の向上を図った。
   繊維候補材と表面処理を施した繊維材の耐熱性を評価した結果、Zrを添加したSic系繊維カーボンを被覆した繊維ZMの強度が1,400℃で1GPa以上(目標1GPa)であることを明らかにした。
 [3] 基盤材と補強材の複合化
   [1]項で開発した基盤材のスラリーを補強繊維材間に充填し、繊維複合材の作成を行った。水分量、pHの調整を行い、スラリーの粘度を低下させ、補強繊維材間にスラリーが隙間なく充填する様に改善を図り良好な成形体を得ることができた。しかし、その成形体を焼結したところ、繊維との界面を中心に気孔が残存し、十分な強度が得られなかった。今後、気孔を減らすため基盤材と繊維との反応性の改良が必要であることが分かった。
 [4] 大型部品成形、焼成、研削技術
   シリンダーライナー形状の複合材の成形を行うため、金属製の金型と石膏型を組み合わせた加圧、減圧式成形装置を試作した。この装置を用い、水分量、pHの調整を行った基盤材のスラリーを補強繊維間に充填する方法でシリンダー形状の部品を試作した。
   その結果、良好な成形体が得られ、本装置で部品形状の成形が可能であることが確認できた。しかし、焼結体には気孔が多く十分な強度が得られず、気孔を少なくするため更にスラリーの調整、焼成パターンの改良が必要であることが分かった。
(2) 摺動及び耐熱大型部品試作
 [1] 低摩擦、低磨耗を有する材利用の開発
   シリンダーライナーを対象とした低摩擦、低磨耗を有する材料を開発するため、(1)−[1]項の基盤材に、Fe3O4を添加して窒素雰囲気中の1,500℃で焼結した結果、既開発材である高温(1,900℃)で焼結したFe3O4添加低摩擦Si3N4と同様の組織が得られた。試作品の組織分析を行った結果、焼結体中に低摩擦、低磨耗の効果を有するFe化合物が均一に分散している組織が得られた。
 [2] 耐熱、耐腐食性を有する材料の開発
   ピストンクラウン材を対象にした耐熱、耐食性を有する材料を開発するため、高融点の元素周期表5a族の金属酸化物を添加したSi3N4を作成し、その高温強度、腐食性の評価を行った。その結果、800℃で800MPaの強度(目標800MPa)を有する材利用を開発した。また、腐食試験後にも強度低下が見られず、高温で焼結した従来材に比べて優れた耐食性を示した。更に、ピストンクラウン形状の部品を試作し、部品制作時の問題点を抽出した。
 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION