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■事業の内容

各産業においてCIM(コンピューターによる統合生産)のシステムの構築を進めており、造船においては本財団が造船CIM構築の基盤であるフレームモデルを開発し、現在、造船各社がCIMの構築を推進している。一方、製造業の情報化は更に進展し、個別企業の情報化に止まらず企業間協調の方向性が求められている。本開発研究では、CIMを容易に効率よく構築するとともに協調のための基盤を提供するためのツールとして、組立産業に共通する汎用プロダクトモデル環境(GPME:General Product Modeling Environment)を開発し、造船をはじめ組立産業全体の次世代情報システム化促進に寄与することを目的に実施した。
 本開発研究を実施するにあたり、前年度に引き続き財団内に開発研究委員会を設置し、この下にGPME開発評価ワーキンググループ(A(Advisory)グループ)を設けた。また、実際にソフトウェアの開発を行うソフトハウスの開発担当者で構成するGPME開発実施グループ(D(Development)グループ)と、開発内容及び先端システム技術に関する指導と基礎研究の実施を担当する大学グループを別途組織し、これら3グループが開発研究委員会の指示のもと、それぞれの特徴を活かしつつ、電子メール等も利用し、互いに連帯してGPME開発を行った。
 GPME開発の目的は造船業を含む組立産業におけるプロダクト情報及びプロセス情報のモデル化とシステム統合化の基盤をソフトウェアパッケージとして提供し、我が国造船業をはじめ組立産業全体のCIM化を効率よく加速推進しようとするものである。この目的を実現するために、本開発では、「知識のモデル化に基づく知識共有」、「ネットワーク環境でのシステムの分散化と相互運用によるシステム統合」、及び「システム統合化の基盤としての高度なユーザー支援」の3つの基本機能の実現を目標として、本年度は以下の開発を実施した。
(1) GPMEの開発
 [1] コモンフレームライブラリ(CFL:Common Frame Library)基本設計・詳細設計、実装作業
  a. コモンフレームライブラリのコモンオントロジに関するクラスについて、検討を行った。
  b. 組立産業共通のオントロジを表現するクラス(CFL)ならびに組立産業に依存しない汎用的なクラス(BFL:Basic Frame Library)の設計、実装作業を行った。
  c. 汎用的な昨日を提供するユーティリティの設計、実装を行った。
  フレームライブラリ(FL)は、製品の設計から生産までを統合するプロダクトモデル論理表現であるオントロジを、実際のソフトウェアとしてオブジェクト指向プログラミング言語C++で実装されるクラスライブラリ(一種のソフトウェア部部品)である。このフレームライブラリはコモンオントロジを表現するコモンフレームライブラリ(CFL)とGPME環境を使ってユーザが拡張する拡張フレームライブラリ(EFL:Extended Frame Library)とに分けられる。このコモンフレームライブラリは、GPMEユーザのプロダクトモデル作成を支援するため、実装済みのGPMEパッケージの一部として作成したもので、設計情報、組立手順情報、日程情報、資源情報などを表現する基本的なクラスライブラリで構成される。ベーシックフレームライブラリは、コモンフレームライブラリや拡張フレームライブラリの実装に便利な機能を提供するクラスライブラリである。
 [2] ユーザ・ファンクション(UF:User Function)設計、実装作業
   複数クラスに関係している処理を洗いだしGPMEの外部関数として提供するユーザ・ファンクションの設計、実装を行った。
   ユーザ・ファンクションは、組立産業でよく使われる関数あるいは操作を実現するもので、コモンオントロジを表現するクラス群に対する処理であるが、実際には使わないメソッドをリンクすることによるプログラムの肥大化を避ける等の理由から、特定のメソッドとしては実装せず、別途ユーザファンクションの形で実装した。
 [3] プロダクトモデル・アクセス・プロトコル(PMAP:Product Model Access Protocol)/プロダクトモデル・アクセス・インターフェイス(PMAI:Product Model Access Interface)の設計、実装作業
   プロダクトモデル・アクセス・プロトコル規約に基づき、オブジェクト指向プログラミング言語であるC++プロダクトモデル・アクセス・インターフェイスの設計、実装を行った。
   プロダクトモデル・アクセス・プロトコルは、具体的な製品ならびにその製作に必要な情報を表現したものであるプロダクトモデルデータ(PMD:Product Model Date)にアクセスするために必要な手続きを定めたもので、プロダクトモデル・アクセス・インターフェイスは、プロダクトモデルデータへのアクセスを実装したライブラリ/プログラムである。
 [4] グラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI:Graphical User Interface)の開発
  a. オントエディタ(Onto Editor:Ontology Editor)設計、実装作業
     オントエディタの仕様書に基づき、設計、実装を行った。
  b. プロドエディタ(Prod Editor:Product Editor)設計、実装作業
     プロドエディタの仕様書に基づき、設計、実装を行った。
   グラフィカル・ユーザー・インターフェイスは、フレームライブラリの拡張とプロダクトモデルデータの作成を支援するもので、フレームライブラリの内容を表示してその開発作業を支援するオントエディタと、プロダクトモデルデータの内容を表示してその確認/変更作業を支援するプロドエディタがある。
(2) プロダクトモデル(PM:Product Model)の開発
   GPMEの開発段階でのテストのためプロダクトモデルを構築した。
   GPMEにおけるプロダクトモデルは、電子化された設計と生産情報であり、それを共有することによって、以前の製品情報の流用もできるし、他企業の製品情報も利用することもできる。さらに、プロダクトモデルは設計生産情報の生成と変更及び利用を支援しており、シミュレーションに基づく設計を表現することができるものである。
(3) 拡張フレームライブラリ(EFL:Extended Frame Library)の開発
   サンプルアプリケーションを作成する際に、そのアプリケーションが利用するクラス群として拡張フレームライブラリを構築する必要があるので、サンプルアプリケーションとともに開発した。
   拡張フレームライブラリは、本来GPMEの環境及び提供されるコモンフレームライブラリを用いてGPMEのユーザが作成する部分であるが、本開発では、造船業という観点から拡張した造船用の拡張フレームライブラリ、すなわち造船業のコモンフレームライブラリとなるものを実装した拡張フレームライブラリをコモンフレームライブラリと併せて開発した。
(4) アプリケーション(AP:Applications)の開発
   GPME自体のテストとエンドユーザのアブリケーション開発の参考とするため、アプリケーションをサンプルとして開発した。
   アプリケーションは、プロダクトモデルデータにアクセスすることで対象とする業務を行う業務応用プログラムで、実際のデータの生成、変更、削除はこのアプリケーションを経由して行われる。本開発では、機能検査及びデモンストレーションのために数種類のサンプルプログラムを作成した。
(5) GPME Studioの開発
   GPMEとして統一した操作となるようグラフィカル・ユーザー・インターフェイスの提供とGPMEの各機能実行のベースとなる基本環境を整備するために、GPMEの機能を提供するデスクトップ環境であるPME Studioを開発した。
   GPME Studioとは、GPMEの機能を利用するための共通デスクトップ環境で、ユーザーはGPME Studioからフレームライブラリの構築や修正、プロダクトモデルのメンテナンスといった各種操作を実行できるものである。
(6) 総合テスト及びドキュメント作成
   1から5までで作られたGPMEの総合テストを行い、ユーザ環境にインストールできるようドキュメントを作成した。
   GPMEの成果物か当初の計画どおりの仕様を満足したものになっているかについて評価を行うため、評価ワーキンググループの造船各社及び東京大学によって試行を行った。評価方法にあたっては、GPMEに要求される機能を5項目に分類するとともに、GPMEを利用した実際の作業を想定し、以下の3種類の評価方法を必要に応じて適宜組み合わせて評価を行った。
 [1] フレームライブラリを利用したサンプルプログラムを作成し、その作成過程及び作成できたサンプルプログラムの持つ機能からGPMEを評価する。
 [2] GPMEで提供されるフレームライブラリを実際に拡張する作業を行い、その拡張過程及び拡張できた拡張フレームライブラリの機能からGPMEを評価する。
 [3] GPMEに実装されたコンポーネントを実際に利用することによって、そのコンポーネントの機能を評価する。
以上の結果、当初の目的を達成し、GPMEに求められる機能要求を満足していることが確認された。
(7) 海外調査
  STEP(Standard for Exchange of Product Model Date)の動向や適用状況、及びGPMEの開発にとっては有益な実用的知見・知識等を得るために、下記のとおり海外調査を実施した。
 ・調査回数:3回
 ・調査日程と調査地
   第1回 平成8年6月7日〜6月14日
       国際標準化機構(ISO:International Organization for Standar Daization)のSTEP会議(神戸)
   第2回 平成8年10月6日〜10月13日
       ISOのSTEP会議(トロント:カナダ)
   第3回 平成9年3月1日〜3月10日
       ISOのSTEP会議(チェスター:イギリス)
 ・派遣者 大和裕幸委員(東京大学大学院工学系研究科 助教授)     


■事業の成果

平成元年度から5年度にかけて実施した二つの造船業CIM関連の開発研究事業の成果を受け、平成6年度において組立産業全体の業務の在り方を探り、フレームモデルの概念を発展的に展開した汎用のプロダクトモデル(GPM:General Product Model)が検討されてその概念が確立された。さらにGPMの具体化について検討した結果、汎用的なソフトウェアツールや機能を包含した、造船業だけでなく自動車産業や建築業などの組立産業全体用として、それぞれのプロダクトモデルを効率よく容易に構築できる組立産業汎用のプロダクトモデル構築支援環境(GPME:General Product Modeling Environment)を提供することが有用であると確認されたため、これらの検討結果を踏まえ平成7年度から8年度にわたる2年間の開発研究を実施した。
 本開発研究の初年度には、GPMの根幹となるオントロジ(設計や製造過程に関する情報等をモノとその属性及びそれらの間の関係の定義の集合として表現したもの)の詳細設計を行い、加えて、各種開発環境ツールを含めたGPMEの全体構成を整理してその仕様を確定するとともに、GPME中核部分の基本設計から実装設計までを実施した。本年度はこれらの成果を受けて、オントロジの具体的実現物であるフレームライブラリや各種の環境開発ツールの実装、GPME構成要素の機能・性能を評価するための各種サンプルプログラムの設計・実装・拡張を行った。この各調査業ではGPMEの有する機能の検証・改善作業を兼ねて、開発環境ツールとしてのGPMEが実際に使用された。また、サンプルプログラムを用いてGPMEの総合的な機能・処理速度の評価を行い、その有効性を確認した。これら本年度事業を実施した結果、フレームライブラリの機能は当初の目標を達成し、GPMEに求められる機能要求を満足することが確認された。また、フレームライブラリ拡張支援機能、プロダクトモデル操作支援機能、アプリケーション作成支援機能などのプロダクトモデル開発環境も十分実用に耐えうるものが出来あがり、今後はこれらの機能を利用することによって、CIMシステムの開発がより効率よく行えるようになるものと期待され、我が国の造船業をはじめ組立産業全体の次世代情報システム化促進に寄与することができた





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