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■事業の内容

(1) 乗り物酔いの生理的限界の解明
 [1] 乗り物酔い・乗り心地に関する研究実績・実態の調査
   各分野における研究結果をまとめて、乗り物酔いに関する研究実績のデータベースを作成した。このデータベースに本研究の成果を取り込むことにより、乗り物酔いのメカニズム及び心理的影響を考慮した生理的限界の解明の資料とした。
 [2] 乗り物酔いのメカニズム解明に関する基礎研究
   従来の研究では、純粋な医学的、生理学的見地からか、または工学的見地からかのどちらかであり、その接点を見いだせなかったが、本研究では工学的手法を基本としながらも、医学的、生理学的、心理学的アプローチを行った。酔いの発症過程を解明するために行った。主な計測内容は以下のとおりである。
  a.精神的、身体的健康度の事前調査
   アンケート調査、血液・尿検査、心電図測定、平衡機能検査を行い、実験中に障害を発生する可能性がある被験者の有無を検した。
  b.動揺暴露実験
   実験前に、平衡機能検査、採血・採尿を行ったうえで、動揺模擬装置内で心電図、血圧、脈拍、体温、脳波、表情、顔面温度等を測定し、実験中は一定間隔で心理状態の聞き取り調査を行った。また実験後も、平衡機能、心電図、体温とともに採血・採尿を行った。
  c.動物実験
   人と同じ霊長類であるニホンザルを用い、動揺模擬装置を使って静止状態と動揺暴露中の脳波を測定した。
 [3] 乗り物(実機)を用いた実験
   境港−隠岐諸島、博多−五島、新潟−佐渡、八幡浜−臼杵の4航路で就航しているフェリー等に乗船し、船体動揺と被験者の生理的反応を計測した。また前年度に引き続いて列車実験を行い、今年度は遊具を用いた実験も行った。船舶実験については、振動、照度、騒音、温熱等の環境計測も行い、また一般乗船客に対してアンケート調査も実施した。
(2) 動揺の少ない船型の開発
  平成6年度にフェリー船型、前年度には単胴高速艇船型について実施し、今年度は双胴高速艇船型を対象とした。双胴型高速艇のある船型を原型とし、系統的に設計主要目を変更した場合に動揺特性がどのように変化するかを理論解析により調査した。
  船型の評価は、満載状態、航海速力における長波長不規則波の向かい波中の上下加速度と、横波中の横揺れ角、上下加速度について行った。理論計算はストリップ法(MSM)に基づく微少振幅の線形理論を基本として行ったが、一部非線形計算を行い、計算法の相違による差についても検討した。
(3) 委員会の実施
 [1] 第1回乗り心地のよい低動揺型船体形状の調査研究委員会
  日 時  平成8年5月17日(金) 14:00〜16:30
  場 所  船舶振興ビル 10階会議室
  出席者  宝田 直之助 (委員会)他21名
  議 題  ・平成8年度計画について
       ・具体的実施計画(案)について
 [2] 第2回乗り心地のよい低動揺型船体形状の調査研究会
  日 時  平成8年12月16日(月) 13:30〜17:30
  場 所  大阪府立大学 学術交流会館特別会議室
  出席者  宝田 直之助 (委員会)他16名
  議 題  ・調査研究中間報告について
       ・報告書のとりまとめ方について
       ・船体動揺模擬装置による実験見学
 [3] 第3回乗り心地のよい低動揺型船体形状の調査研究会
  日 時  平成9年2月28日(金) 13:30〜16:00
  場 所  船舶振興ビル 10階会議室
  出席者  宝田 直之助 (委員会)他18名
  議 題  ・報告書(案)審議について

■事業の成果

(1) 本事業の成果
  本事業は、他の交通機関に対して乗り心地の改善が遅々としていると言われる船舶において、その理由の一つである低周波数の動揺による船酔いの現象を解明し、船酔いを避ける動揺限界の把握を行い、これを満足させるための経済的な船型の開発を行う目的で平成6年度より実施した。
  平成6年度より3か年にわたる成果として、乗り物酔い・乗り心地に関する研究実績・実態の調査においては、「乗り物酔い」関連の過去の研究に関する約350編の文献を調査したところ、乗り物酔いの発症過程を量的に解析評価した研究は見当たらず、かつ工学、医学、心理学等の各々の分野で研究実績はあるものの、複数分野の共同研究は極めて少ないことがわかった。そのうえで、これらの研究結果を随時参照できるよう「データベース検索システム」を構築した。
  乗り物酔いのメカニズム解明に関する基礎研究については、実験中及び実験前後の各種計測により得られたデータを解析した結果、心理的変化の計測では、ファジー積分(諸要因の数値化)による解析法が乗り心地・乗り物酔いの評価に有用であることがわかった。また生化学的変化では、タイプA(精神・肉体的に過敏で競争心が強い)の性格またはストレス状態に陥りやすい人ほど酔いやすく、性格行動尺度及びストレス度が他の用意より強いことがわかってきた。さらに血液検査結果からの生理学的影響因子としては、全ての血液成分が何らかの形で乗り物酔いの発症に関係するが、特に肝機能の低下に関係ある成分の嘔吐直前時の急激な変化が大きく影響していた。
  乗り物を用いた実験で得られたデータは、本物の乗り物によるデータとして動揺模擬装置でのデータ不足を補うとともに、解析や考察において役立った。今後は実船と模擬装置との相関関係など、さらなる詳細解析において有用かつ貴重なデータとなることが期待された。
  一方、動揺の少ない船型の開発では、3か年で3船型(フェリー船型、単胴高速艇船型、双胴高速艇船型)について系統的理論計算を行った。またフェリー船型については、今年度の従来型と改良開発型の2隻による水槽実験を実施した。その結果、水槽実験により理論計算ほど動揺減少効果は少ないことを確認し、今後の船型開発の参考となった。
  動揺の少ない船型と乗り物酔いとの関係では、フェリー船型の場合の船体上下加速度と嘔吐率の関係を算出した結果、不規則波中で上下加速度13〜14%、嘔吐率17〜18%の低減が可能であることが推定され、この数値は他の諸性能を損なわず船体形状だけによるものであり、有益な設計指針が得られたものと思われる。
  以上、医学と工学の共同研究による計測・解析により、動揺と心理的、生化学的、生理学的諸要因の相互関係が概ね明らかになったことで、我が国の海運・造船産業の発展に寄与するものとなった。 





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