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マヌエル・デ・ファリャ  舞踊音楽「三角帽子」

 

 

(1876−1946)
ロシア・バレエ団の興行師、セルゲイ・ディアギレフは、同バレエ団が戦火の及びはじめたフランスから避難しようとした1916年、マヌエル・デ・ファリャに対し何度も、ドビュッシー、ラヴェル、その他の西ヨーロッパの作曲家たちのように、同団のレパートリーに貢献するよう説得しようとした。ファリャのピアノと管弦楽のための「スペインの庭の夜」を用いることが提案されたが、伝記資料はファリャがそれに対し消極的だったとしている。しかし、1984年にロンドンのオークションに出されたサージ・ライファー・コレクションの中にそれまで存在の知られていなかったファリャの手紙があり、それによるとファリャはこの提案を支持している。しかし、この案はのちに「三角帽子」にとって代わられることになる。
この作品はドン・アントニオ・ペドロ・デ・アラルコンの小説「三角帽子」をもとにしているが、この小説自体スペインの古い民話「司法長官と粉屋の女房」をべ一スにしている。台本はファリャと劇作家マルティネス・シエラにより書き上げられ、最初は1917年にマドリッドでマイム劇として上演され、音楽は小編成のオーケストラによる伴奏音楽でしかなかった。それを観たディアギレフは早速気に入り、フル・スケールのバレエ作品を委嘱、1919年7月22日ロンドンのアルハンブラ劇場で初演される。この作品は著名な芸術家たちの合作から成り、レオニード・マシーンの振付、パブロ・ピカソの美術、エルネスト・アンセルメの指揮、粉屋とその女房はそれぞれマシーンとダマラ・カサヴィナが踊った。司法長官はレオン・ヴォイシコウスキが演じ、三角帽子はその地位の象徴となるものである。
この喜劇は、粉屋の美しい女房と浮気をしようとする、ついていない司法長官が中心の話であるが(フーゴー・ヴォルフとリッカルド・ツァンドナイは同じ題材をもとにそれぞれオペラを作曲している)、ファリャは物語に息を吹き込むため、いろいろな地方の民謡や踊りを意識的に採り入れている。観客がピカソによる緞帳(闘牛の1シーンを描いたもの、現在はニューヨークのレストランに飾られている)を鑑賞できるよう、ロンドンでの初演の際、幕が開く前に音楽に短い導入部が加えられ、その間遠くから悪魔がまもなくやってくるかもしれないと歌う声(メゾ・ソプラノ独唱)が聞こえる。
かわいい奥さん、かわいい奥さん扉のかんぬきをしっかり閉めな!悪魔は眠っているけれどすぐに目を覚ましてしまうから
椴帳が上がると、水車小屋の外のシーンで、近くの小川には橋がかかっている。最初の音楽にムルシアの民謡の一節が聞こえ、これにより粉屋が南部出身であることがわかるが、そのあとすぐにホタのメロディーが流れ、女房の方はナバールから来た北部出身であることがわかる。
尊大なバスーンの音が司法長官の行列の到着を告げる。司法長官は粉屋の女房の美しさに心を打たれるが、この場ではまずいのであとで独りで戻って来る。そこでは粉屋の女房がファンダンゴを踊っている。女房は夫にしつこい男をどうやってかわすか隠れて見ているよう言ってあるのである。彼女は、古風なメヌエット風の音楽の流れる中、この迷惑な訪問者を一房のぶどうでからかい、司法長官はすべって転び、その威信を失う。司法長官が思いを裏切られてよろめきながら去ったあと、粉屋とその女房は再びファンダンゴを楽しげに踊り始め、このバレエの第1場を終える。

 

 

 

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