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日本フィル創立40周年を迎えるにあたり、「聴衆の皆様と楽員の間をもっと身近に」との思いをこめてのこのコーナーです。ステージ裏の“普段着”の横顔をご紹介します。創立40周年シリーズ、前半最後のこのコーナーは、日本フィルの若きスター、首席クラリネット奏者の伊藤寛隆です。

 

「うちのクラリネットセクションは、日本一のセクション!」と胸を張る彼は、正義感が強く情けに厚い、まさに「日本男児」。

 

―伊藤さんは、日本で一番若いプロオーケストラのクラリネット奏者ですね。
伊藤:クラリネット奏者の世界は一般的に世代が高いんです。だから20代で入団する人は殆どいないんじゃないかな。それだけ、クラリネットという楽器には技術だけじゃなく、音楽の内面的なものが必要なんだと思う。若い僕を、期待して採用してくれた日本フィルに対して、僕の責任は重いと感じてます。今はまず、もっと読譜力をつけなければいけないと思ってるんだ。
―読譜力?
伊藤:楽譜を表面上読むだけでなく、音符の構成、流れ、そしてその裏側までを読む力、といえばいいかな。僕がオーケストラ・プレイヤーになって一番変わったのは、とにかく練習する時間が少なくなってしまったこと。オ一ケストラのスケジュール上、仕方ないんだけれど…だから、これを補うためには絶対に読譜力が必要になってくる。
―伊藤さん、とても真面目。
伊藤:そう。僕は根っから真面目な男なんです。男は堅実で真面目で優しくて、そして説得力がないとダメですよ(笑)。
―よお!日本男児!
―ところで今回のヨーロッパ公演は、いかがでしたか?
伊藤:本当にいろいろと収穫のある公演でした。向こうのホールは響きがとても自然なんですよね。勿論、湿度の違いは大きいけれど。特別な響きを加えず、本当にそのままの音色を響かせる。だからこのホールではどう響かせるか、ではなく、自分自身でどういう響きを出すか、お客様に何を伝えるのか、これが一番大切なんだと再認識しました。

 

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―話は変わりますが、伊藤さんに憧れている中高生のために、昔話などを…
伊藤:(笑)何を隠そう、中学入学するまでは野球部に入部するつもりだったんだ。でも入学式での吹奏楽部の演奏に感動してクラリネットを始めた。とにかく勉強そっちのけで一日中練習していたよ。朝練・昼練・放課後・帰宅後。
自宅は鎌倉なんだけど、高校は吹奏楽部が有名だった茅ヶ崎の高校へ。でも入学した途端、指導していた先生がいなくなっちゃって、結局、3年生から僕が指導しながら棒をふっていた。そのまま今でも母校の指導を続けてるんだ。もう、かれこれ11年になる。そういえば広上淳一さんも茅ヶ崎出身でしょ。彼と“茅ヶ崎で絶対日本フィルの演奏会を開こう”って盛り上がった事があるよ。本当に実現できたら、いいなあ。それにしても、真面目な話、僕は日本フィルに入団できたことで本当に精神的に大人になれたと思う…いやあ、こんな人間味あふれたオーケストラは他にないって。交流会、保育園・小学校や震災後の神戸での演奏など、お客様と直接触れ合う機会にとても恵まれている。
若い楽員もみんな、音楽に対して本当に熱い想いを持っているし。このメンバーでずっと演奏し続けた数十年後の日本フィルは、いったいどんな音がするのか、とても楽しみだね。定期会員の皆様、僕の心のこもったクラリネットと熱い日本フィルの演奏をこれからもよろしくお願いします。

 

聞き手:星野究(tp)
文責:編集部

 

 

 

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