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前回に引き続き、第3回ヨーロッパ公演の模様を、楽員からの現地レポートを中心にお伝えします。

 

【5月5日 ヴィルヘルムスハーフェン】

 

この日5月5日は指揮者・広上淳一氏の誕生日でした。GPでマエストロが思考をこらし、「スペイン綺想曲」を振り出したところで鳴り響いたのは “Happy Birthday to You!!”そして当ツアーの旅行会社、現地招聘マネージメント、日本フィルからプレゼントの嵐。「もう今日は練習できないヨ・・・」と広上氏。
さて、コンサートは、静かな町の印象とは異なりロビーは盛況。オール・スペインものプロに、聴衆も足を踏みならして大喜びでした。(編集部)

 

【ヴィルヘルムハーフェン評】

 

音楽による回本人の第一級の仕事

 

ヴィルヘルムスハーフェン・シュタットホールで開催中の国際オーケストラ・コンサートは、日本フィルハーモニー交響楽団の客演をもって華々しいその幕を閉じた。魅惑的な正確さを持つオーケストラにおいては、すばらしく均整のとれた管楽器群、ふくよかな特徴の弦楽器奏者の響き、そして第一級の「掘り刻んだようにきっちりした」金管楽器群、要するに豊かで磨きぬかれた音と、熟練した技術を持つパーフェクトなオーケストラが聴かれ得るのである、だが、それ以上にこのオーケストラは、第一級の指揮者広上淳一を擁していた。この日ちょうど38歳の誕生日を迎えた彼は、エネルギッシュで意識的に目的を持ち、音楽の根源を忘れず、ぎょっとさせる程の、踊りだす様なヴァイタリティの持ち主であり火山にも比肩しうる。その彼がオーケストラと合体するや、模範的なまとまりのある音楽の統一体を醸し出す。
プログラムはスペイン的な気質と色合いで彩られ、本来のスペイン人の手になるもの(デ・ファリャ)、並びにフランス人(ラロ)とロシア人(リムスキー=コルサコフ)の目を通したスペインものが取り上げられた。そのプログラムはなるほどひょっとすると、いくらか片寄っているかもしれないが、しかしその解釈は大変心を奪われ決して飽きさせない。
デ・ファリャのバレエ音楽「三角帽子」(ソロ独唱付)の演奏は、この作品がコンサートホールにふさわしくないという考えが誤りだということを論証するものだった。この日本の奏者たちは総て、洗練されたきれいな色合いでこの作品を取り上げた、情熱を込め激しい気性と、それでいて鉄のような自制心を持ち、スペインのリズムや身振り、その表情のもつ可能性に思いひたる。たとえば、小さな歩幅のダンスと大きな歩幅の行進を素早く転換することにより、南方特有の楽しさを醸し出す。厳格さと静謐さを結びつけ、抑制の効いた激情と巨大なパトスを結びつけることが日本人の魂に刻まれているようである。ポーランド人のメゾ・ソプラノ歌手が。特徴ある抑揚で直截に、感動的にそのパートを歌った。
ラロのヴァイオリンとオーケストラのスペイン交響曲ニ短調作品21の独奏は、渡辺玲子である。彼女はふっくらとしたすばらしい温かい艶のある響きを、その見事な楽器からいかなる状態でも力強く均一に引き出し、この作品を演奏した。張りのある緊張感にともなわれた鮮明なアーティキュレーション、そして叙情的な内面性ではあるが、それはいかなる「お涙頂戴をも排したきらめくほどの名人芸を、難なくどんな技術的難所といえども、まるで大した事ではないかのように「見事に演じる」。これらすべての事が、ぞくぞくするような繊細さのある演奏を決定し、それがリズムのうえでオーケストラと印象深いほどに一致する。
リムスキー:コルサコフの「スペイン綺想曲」作品34は例外的に「アルボラーダ」楽章が、いくぶんずっしりとした出来栄えだったが、ジプシーの「シェーナの歌」では非常に特徴がはっきりするなど、いかなる色彩も雰囲気も備え、さらには「アストリアのファンダンゴ」の終結部ストレッタでは、そのものずばり、圧倒的なまでのダンスの衝動に駆り立てる。シュタットホールは本当に熱狂した声にうまり、この声に応えてこの日本からの客演者たちは、めずらしいアンコールを2曲披露した。1曲はノルウェーの作曲家フーゴー・アルヴェーン(1872−1960)の、音響的

 

ページ上の写真:”Happy Birthday!”一プレゼントを受ける広上氏〔ヴィルヘルムスハーフェン〕

 

 

 

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