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川柳エッセー

自分と語る時間を

大野 風柳
一人になるのは沈黙のためではなく自分と話すためなのです
こんなことばを、テレビのコマーシャルで聴いた。自分と話す―という表現よりも、自分と語るの方が私は好きだ。しかし、現実は自分と語る時間があまりにも少ない。どうしてこんなに忙しいのだろう。川柳の仕事に追われるのだろう。
その答えは明瞭である。限度以上の仕事を持っているからである。いや、引き受けているからである。
たしかに暇であるより、川柳の仕事があることを喜ぶべきであろうが、あまりにも仕事が多すぎる。
原稿依頼、選句依頼、大会招聘、カルチャーセンター、講演、添削、それに私は『柳都』を主宰し、編集している。
いまの私の本音は、私が主宰する『柳都』に全力を尽くしたいのだ。しかし、お付き合いも大事にしたい。
どうも、川柳家という人種は、「ノー」が言えない人たちらしい。断れずに何でも引き受け、抱え込んでしまう。
そして、そのあげくアップアップのさまとなる。
全国各地で開かれる川柳大会や、最近ブームとなった誌上川柳大会一私はこのあり方には賛成できない)の選者には、いつも同じ名前が並ぶ。いや並ばされている。
「川柳のためだ、私は喜んで引き受ける」だけでいいのだろうか。なかにはどこにでも顔を出したがる人、自分を呼んでくれないかと売り込む人もいると聞く。
いったい、いまの自分に何が一番大切なのか、川柳のために何をしなければならないのかさえ、ボヤけてしまっているようだ。
そろそろスリムな仕事に切り換えるるときが来たようである。
自分と語る時間を持つときが来たようである。
そのようななかで、全日本川柳協会の役員として、川柳社の主宰者として、仕事の調整を考えなければならない。
元京大学長平沢興氏のことばに
賢いと燃えることができない
燃えるために愚かさがいる

 

 

 

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