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群馬県山間地域住民のアポリポ蛋白E遺伝子頻度およびアポリポ蛋白E受容体結合蛋白の検討

栃木県・自治医科大学 神経内科 村松慎一
(前群馬県・長野原町僻地診療所)

Key words:アルツハイマー病、アポリポ蛋白E、α2-macroglobulin,plasminogen activator inhibitorl

要約

群馬県山間部地域の高齢健常者141名を対象にアルツハイマー病(AD)の危険因であるアポリポ蛋白E(アポE)のε4遺伝子頻度とその年代別推移、血清コレステロール値とアポE表現型との相関、およびアポE受容体であるLDL関連蛋白(LRP)に結合するα2-macroglobulin(α2M)とplasminogen activator inhibitorl(PAI-1)の血中濃度とアポE表現型との相関を検討した。アポE遺伝子頻度は82;0.04,83;0.85,84;0.11で、これまでの日本人の報告とほぼ一致していた。ε4遺伝子頻度は60歳代で0.06と最も低く、80歳以上の高齢者では0.17とむしろ高かった。血清総コレステロール値、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値はアポE表現型と相関しなかった。血中α2M濃度は加齢とともに増加し女性の方が男性より高かった。血中PAI-1濃度は男性の方が女性より高かったが、加齢による変化はなかった。血中似。M濃度とPAI-1濃度はいずれもアポE表現型とは相関せず、血中α2MとPAI-1濃度の測定は健常人ではアポE受容体側の状態を推測する示標にはならなかった。

欧米白人では60歳以降ε4遺伝子頻度が減少すると言われるが、今回の調査では80歳以上の高齢健常者でもε4保有者が相当数存在することが示された。今回調査した山間部地域に特異な点か否か、また山間部の生活がε4保有者にとって有利な環境にあるのか否かさらに疫学調査が必要と考える。

緒言

アポリポ蛋白(アポE)のε4alleleは遅発型アルツハイマー病(AD)の危険因子である。ADではε4の遺伝子頻度が高く、またε4の遺伝子量に比例して発症年齢が若年化することが確認されている。しかしε4はAD発症の決定因子ではないためε4を保有しながら痴呆を発症しない高齢者が多く存在すると推定されるが、実態は明らかではない。

一方、アポEのAD発症への関連をめぐり、最近VLDL受容体やLDL受容体関連蛋白(LRP)などアポE受容体の動態も着目されてきている。LRPはアポEのみならずα2-macroglobulin(α2M)やplasminogen activator inhibitorl(PAI-1)の受容体でもある。血中のα2MやPAl-1濃度を測定することは間接的な方法ではあるがアポE受容体の動態の示標になる可能性がある。
今回我々は高齢化が進んでいる群馬県山間部K地区の住民検診を行う機会を得たため、高齢健常者のアポE遺伝子頻度の実態を明らかにするとともに、血清脂質、血清α2値、および血漿PAI-1値を測定し、アポE表現型との相関を検討したので報告する。

 

 

 

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