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認められなかったが、入院後より徐々に腫脹した。また、11月18日頃よりCT上、頸部、縦隔および肺門部等の全身リンパ節の腫脹が急速に進行した。それに伴い血清Caと尿酸の増加も認められた。末消血中には、核に切れ込みのある異常リンパ球が少数認められ(図6)、悪性リンパ腫またはATLリンバ腫型を疑った。確定診断は、頸部と鼠径部リンパ節の病理組織像(図7)およびSouth emblot法による、HTLV-IプロウイルスDNAのモノクローナルバンドの証明によりなされた。11月末に精査治療目的でH病院血液内科へ転院したが、寛解治療は望めないため家族の希望により化学療法は施行せず12月21日に当院へ再入院し、1995年1月6日に死亡した。

考察

過去15年間の利尻島における悪性疾患の総数は500名にのぼり発見動機、病態、プロフィールなどをデータベースに蓄積している。この中に内血病3名、悪性リンパ腫5名が確認されているが、成人T細胞白血病(adultT-cellleukemial ATL)は本症例が初めてである。
ATLは、レトロウイルスの1種であるHTLV-Iキャリアに発病する。HTLV-Iキャリアは日本全国で約120万人と推定され、そのうち年間約700人にATLが発症している。
ATLは臨床病型分類で、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4型に分類される。本症例は全身リンパ節腫脹により急速に病態が悪化し、末梢血液中のリンパ球数4000/μl未満、異常リンパ球数1%以下より、リンパ腫型に属する。

病理組織診断では、LSG分類で禰慢性リンパ腫(diffuselymphoma)、多形細胞型(preomorphic type)に属する。多形細胞型はReed-Stemberg様巨細胞を混ずるため以前はHodgkin病として分類されることも多かったようである。本症例もReed-Stemberg様巨細胞が認められたため、病理組織のみからATLリンパ腫型と診断することは難しかった。また、ATLリンパ腫型とATL以外のT細胞腫瘍では予後がかなり違うため、HTLV-IキャリアにATL以外のT細胞腫瘍が合併する可能性も念頭に置き、鑑別診断する必要がある。最終的には、リンパ節組織からHTLV-IプロウイルスDNAのモノクローナルバンドを証明し確定診断を下さなければならない。

発病については、一般に母子垂直感染によるキャリアから発病すると言われている。本症例は輸血歴はなく、同胞にHTLV-Iキャリアが多いことより、垂直感染が原因でキャリアとなり69年間の潜伏期間を経て発病したと考えられる。
疫学的にはHTLV-Iキャリアは地理的に周囲の町と隔絶されていた交通の不便な集落で高率に温存される傾向がある6)。実際に、利尻島内には本症例の他にHAM(HTLV-I associated myelopathy)患者1名とHTLV-Iキャリア13名が確認されている。本症例を経験する以前は、当院ではほとんど、抗HTLV-I抗体検査を行っておらず、他院で検査

 

 

 

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