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寺泊町における歯科訪問診療について

新潟県・寺泊町国民健康保険診療所歯科 富井康年

要旨

私は勤務地の寺泊町(人口約12,800人)で、「歯科訪問診療」を1986年4月16日から開始し、1996年8月31日現在、100人の通院の著しく困難な患者にたいし、延べ1,024回行ってきた。
患者の男女別は男が32人で、女が68人であった。患者の所在別は自宅が38人で、老人ホーム等施設に入所している者が62人であった。初診時の年齢は20オ代が2人、30才代が1人、50才代が1人、60才代が13人、70才代が38人、80才代が39人、90才代が6人であった。
昨年までの10年間で、43人の患者に対し延べ360回の歯科訪問診療を行った。その実績が認められ、昨年の12月には県からの補助金を得てポータブルの歯科診療ユニットを購入することができた。今年の1月からは、町にある「養護老人ホーム(入所者150人)」と「老人保健施設(128床)」に歯科訪問診療をすることができるようになり、毎日午後2時から5時半の3時間半を歯科訪問診療にあてている。今年にはいり、8月31日までの8ヵ月間で、68人の患者に対し、延べ664回の歯科訪問診療を行い、1,212万円余の診療報酬を得た。これは当歯科の診療収入の62%にあたる。

I.はじめに

歯科訪問診療の目的の一つに、寝たきり等、通院の著しく困難な人の所へ出かけて行き、口腔ケアを通して快適な日常生活をおくれるように手助けをしながら、患者本人と介護する家族を勇気づけることがある。ベッドサイドで患者に触れることは、まさに医療の原点であった。歩いて歯科の診療室へやってくる患者からは感じ取ることのできない、病める人が心の深い所から発する何ごとかに触れることができた。そこから、つい忘れがちな、弱い立場の人に対し、優しい気持ちで接する慈悲の心を呼び起こすことができた。
他人の家の寝室に入り、患者の体に触れ、同じレベルの世問話をし、その家族にしかわからない匂いや空間を共有するところから、病む者の体と心を癒す何かが生まれてくるのだと思う。

II.歯科訪問診療の実態及び考察(1986年4月16日から1996年8月31日まで)

1)歯科訪問診療の様子(図-1〜図-8)
図-1は旅行にでも出かけるような光景だが、これがポータブルの歯科治療器械である。スーツケースのような物の中に硬い歯を削ることのできるエアータービンなどが組み込まれている。
図-2はそれを訪問診療用の車に積み込んだところである。
図-3はそれを部屋に広げたところである。中央のカメラの様なのはポータブルの歯科用X線装置である。左のジュラルミンの大きなカメラケースの様

 

 

 

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