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第3章 観光資源の供用と保護について

 

1. 観光資源の供用と保護

多くの開発途上国で、経済社会の発展を図るために、自らの自然資源、歴史文化資源を活用した観光開発を目指している。観光開発は工業開発や農業開発に比較して比較的容易に目的を達成することができると考えられている。しかし、不適切な観光開発や過度の観光客の集中による自然資源、歴史文化資源の保護という事態も生じてきており、環境を重視する人々からは観光内容に対する厳しい批判の声も聞かれ、ときには観光客を締め出すという方法が行われる場合がある。しかし、資源に対する悪影響を必要最小限に留めるべく配慮して行われる観光開発は資源の保護にとっても望ましいものであるという意見も形成されつつある。
自然資源、歴史文化資源の保全、復1日に努力してきたUNESCOにおいても、これらの資源の維持管理に要する費用は、資源を観光の用に供することによって確保することが合理的であるという考え方が有力になってきている。世界初の観光サミットとして、我が国の運輸大臣の招聘により世界観光機関の後援のもとに1994年11月に大阪で開催された「世界観光大臣会議」では、「OSAKA観光宣言」を採択した。観光と環境の関わりについては、この中で、つぎのように述べられている。
「国際観光が社会・環境に与える影響
観光の発展による伝統的な文化と生活様式の破壊や弱者の搾取は深刻な結果となりうるものであり、これは厳に避けなければならない。観光客も地域社会に悪影響を与えることのないよう思慮ある望ましい行動をとることについて責任を持たなければならない。
良く保存された自然環境や文化遺産は、非常に貴重な観光資源である。観光はそれらの破壊者ではなく、保護者となるべきである。観光産業は観光客が自然環境や文化遺産の保全のため責任を分担することにより、それらの価値を保全し、同時に観光資源として活用することが可能となる。このような具体的措置を伴う保全、活用および開発の調和ある循環が、良好な観光資源を子孫に伝える推進力となり、持続可能な観光を実現させることとなる。
また、JICAの環境配慮ガイドライン、運輸省経済協力環境配慮方策調査、持続可能な観光の推進に係わる現場指針案の検討に関する調査等も同様の考え方にたっている。
特に、歴史文化資源の場合は、資源の保全の努力をしない限りその資源は劣化、破壊、消滅の道を迫ることになり、貴重な歴史文化資源が後世に残されなくなるおそれがある。そのような資源は人類の誇りであり、この資源の観光面における活用の仕方によっては民族意識、国民統合の象徴ともなり、時には伝統文化の再興に繋がることもあり得ることが指摘されている。観光資源の保護に欠かせないことは、そこの地域住民が必要性を認識することである。いくらお金を掛けて資源の保護を図ろうとも地域住民の意向を無視して観光開発、観光振興、資源保護が進められていては目的を達成すことは困難である。その資源が観光の用に共されることによって地域住民に収益をもたらし、地域の経済の発展に寄与し、福利厚生のために役立つことが明確にされるのであれば、地域住民は資源の大切さ、ありがたさを認識し、その保護の必要性も認識されることになる。

 

 

 

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