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1 調査結果のまとめ
 
世界観光機関(WTO)ではアジア太平洋地域への国際的な旅行者が20後年には年間2億人に近い数になると試算している。また、世界的に見ても経済成長による所得の増大や、空路、陸路のアクセス整備による旅の利便化、また地球規模における国家間対立の緩和などから、旅行者の数は増加の一途をたどっている。国際的に見ると21世紀はまさに観光の時代なのである。
しかし、わが国に関しては、順調に伸長している日本人海外旅行者数(1530万人、1995年度)に比べ、訪日観光客数はきわめて低い水準であり(335万人、同年)、ここ何年も横ばいあるいは微減の状態にある。
わが国は観光魅力において決して他国に劣るものではない。その歴史的文化遺産、巧みな工芸芸術、そして四季折々の変化に冨んだ自然、自然と調和する文化性高い暮しぶりなどなどがいたるところに魅力を醸し出し、日本は世界的に観光価値の高い国として評価を受けてきた。ここに至って運輸省が平成7年度にまとめた「ウェルカムプラン21」に代表されるように、日本を訪れる海外からの観光客を倍増しようという、日本の魅力を世界に再発信しようという動きは、きわめて的を得た考え方であるといえる。
しかし、具体的な誘致事業の推進は、実際に観光客を受け入れる各地域の理解や協力なくしてはありえず、また国と地域、地域と地域などが連携を取りながら推進されなければ、求める効果は得られない。財団法人アジア太平洋観光交流センター(APTEC)では、この「地域」に注目し、関西2府7県のすべての地方行政(代表的な観光関連団体を含む)に対して、アンケート調査を実施した。アンケートの結果として、海外からの観光客誘致を支えていくべき各地域の意識レベルや取り組みの実態を捉えることができ、われわれが抱える課題が浮き彫りにされ、今後の国際観光交流の推進に重要な示唆を与えるものとして、きわめて有意義な資料が得られたと考える。
まず、国際観光の振興については、多くの自治体が興味を示しており、具体的に何らかの施策を実施している自治体は全体の1/3以上にもなるが、その施策はあくまで外国語のサインの設置やパンフレットの制作など実際に海外からやって来た観光客を受け入れた場合の対応策が中心となっており、積極的な誘致のための外への働きかけはほとんど見られないことがわかった。
また、積極的な観光客誘致に対して、多くの自治体が国内観光振興がまず必要であるという回答をしたことは興味深い。観光資源が何もない、ノウハウがない、支える人材・資金がないといった回答からみても、地域単位では、魅力を訴求し、遠く海外から観光客を誘致することに関してはその端緒さえも見えていないという実態が推し量れる。
国際交流では約半数の自治体が何らかの国際交流施策を実施している。しかし、実施内容は友好関係都市の相互訪問、短期留学、スポーツ・芸術公演の派遣や受け入れなどが中心で、長期にわたる人材の相互派遣や技術交流などの回答は少なかった。国際的相互理解、友好関係構築による国家安全保障などの観点からは非常に有意義であるという見方はできるが、具体的な交流が地域の経済・産業の活性化や雇用の拡大に貢献しているという事例は見受けられなかった。
そういった「地域」の国際観光交流に対する意識や取り組みの問題点が明らかになる中、APTECに対する要望においては、観光誘致のノウハウ面での支援や観光交流のあるべき“かたち”の提示を求めるものが多く、まず何にどう取り掛かればいいのかを示してほしいという初期段階の悩める姿勢が如実に現れている。旅行業者との連携などについても助言を求める声が多い。
これらのアンケート結果を踏まえながら、APTECではこの度の国際観光交流促進シンポジウムを含む今後の事業推進において、まずこれまで国際観光交流と縁遠かった自治体でも世界と何らかの情報交流や観光誘致に取り組め、また複数の地域が連携し、国際観光交流を推進できるような具体的な支援を積極的に模索することによって、確実に国際観光交流に貢献できることを確信するものである。

 

 

 

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