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基調講演

 

「地方分権と地域文化の創造」(概要)

 

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熊本県立劇場館長

鈴木 健二

 

○昭和63年7月に熊本県立劇場の運営を委嘱され、8月から県下の98市町村を半年かけて回り、町、村の人々とひざを交え、その地にどういう人材がいるのか、どういう文化があるのかくわしく尋ねた。そこで感動したのは、各地に残る、いわゆる伝承芸能であった。それはテレビの中には全く無い文化であり、日本人の心の根源に関わる文化であった。
○もうひとつ驚いたのは、子供のいない究極の状況に追いつめられた過疎の現実だった。あまりにも遅いが、今すぐ町おこし村おこしが必要だと感じた。
しかしながら、地縁、血縁、そして水利で結びついた村を基本にした経済圏が、明治維新後の廃藩置県や太平洋戦争で大きな変化を余儀なくされ、さらに戦後の農業国から工業国への変貌、集合家族から核家族化への移行に伴い、自分の町、自分の村を自分の手で治めるという意識や制度がほとんど発展せずにきた。その上、過疎だから何をしてもだめだというあきらめが、地方に充満している事実を私は直接眼にした。
○高齢化、後継者不足を経て、すでに子供がいないという現実に立たされているのに、行政は今頃高齢化対策をやっているという2段階も遅い状況にある。その大きな原因は役所の文書主義である。
飛鳥、大和の時代から、日本の行政はほとんどが役人の書く文書によって行われている。例えばある村に、「わが村には江戸時代から神楽が伝承されております」という文書があるとする。しかし、実際その村へ行くともう過疎で消滅しているか、あるいは全体の10分の1ぐらいしかできないのが現状である。にもかかわらずこの文書が保存会から役場に行き、役場は現場を見ないでそれを県庁に上げる。そして県庁からそのまま文化庁、文部省に上がることになる。

 

 

 

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