日本財団 図書館


不満を生じさせ、延いては円滑で効率的な執行に支障を来しかねない。従って、第5に、実務をいたずらに広い解釈に追いやることになり、実務と学説が乖離して、実務を適切に機能させるという学説本来の目的が達成されなくなる、からである。
そうすると、「職務の執行を妨げる行為」に適用される「罰則」の意義を、「現に行われている具体的な職務の執行を妨げる行為によって成立する罪を定める規定」と解釈して、その罪に領海・接続水域法第3条は適用されるとするのが、適当であると考えられる。具体的には、公務執行妨害罪と、その行為が同時に傷害罪(故意のある場合に限り、致死を含む)または殺人罪の要件を充たす場合にはそれらの罪、そして下級審裁判例の認めたように、その行為が同時に往来危険罪(転覆・沈没を含む)の要件を充たす場合にはその罪とに限って、運用するのが妥当であろう。被拘禁者奪取罪を含める考え方もありうるが、被拘禁者奪取罪では、海上保安官が具体的な職務の執行を行なっているとは限らず、適用の基本となる罪としては、公務執行妨害罪に限る方が適当と思われる。
そのように解する理由は、第1に、当初の立案当局者の意図に最も近い。従って、第2に、立法の動機となった職務執行の際の確信と安心を適切に充たすことができる。第3に、裁判例を含めて、従来の実務の蓄積とも矛盾しない。第4に、現実の処理としてもこれだけの罪の適用を考えれば足ると考えられる。第5に、文理に最も適合的である。第6に、刑罰規定解釈の基本である予測可能性という面からも妥当である、からである。
以上の内容を盛り込むのが、解釈論としては限界と考えられ、もしそれ以上に処罰を広げたい場合には、他の立法形式を考慮することが必要と思われる。具体的には、現行法を前提としても、3の(3)で述べたように、「領海及び接続水域に関する法律の罰則に関する法律」で、「領海及び接続水域に関する法律第3条の職務の執行を妨げる行為について適用される罰則は、次の各号の罪とする。1.刑法第95条第1項(公務執行妨害罪)2.……」という規定を置き、第2号以下に必要な規定を列挙すればよい。立法者は、漏れを恐れるあまり、包括的であいまいな刑罰規定を作ることに慣れることは、避けなければならな

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION