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1. はじめに

はじめての先進国海上保安体制調査は、ノルウェーとオランダを対象におこなうことになった。両国の事情については、国民所得が我が国の2倍であり、社会保障制度が充実している国であるという程度の一般的な知識しか持ち合わせず、
また、これまで海上保安に関してはとくに交流はなかったので、海上の安全、海上における秩序の維持及び海洋環境の保全等の分野でどのような活動がおこなわれているのか、その特徴は何であるかについて手許にある資料では理解が進まなかった。
ノルウェー在勤の山川一等書記官及びオランダ在勤の糸井二等書記官からの連絡や送付された資料等によると、ノルウェーは、伝統的な海運水産国であり、1960年代に厳しい北海の気象海象条件のなかで石油採掘に成功して急速に経済が安定してきている。オランダは、かつて英国とともに海洋植民地王国として栄えたが、国際情勢の変化のなかで植民地を失ってからは工業化に力をいれ、一方で1962年オランダの大陸棚でガス田が発見され、ヨーロッパの各国へパイプラインで輸出するなど、近代工業国への転換をとげて高い経済水準を維持している。両国では北海でおこなわれる様々な活動が重要で国の繁栄と安寧に大きくかかわっており、近年は北海における油汚染への対応策の整備を積極的に進めている状況にあった。
予め作成された質問事項を在外公館を通じ先方国各機関と調整のうえ、訪問調査をおこなう手筈を整えながら打ち合わせを続けた。
両国における調査行動中、在ノルウェー野々山大使、在オランダ池田大使を公館に表敬し、その際、尖閣警備、海洋法条約締結及び今回両国を調査対象にした事由等が話題になり、調査への便宜支援について暖かい理解を示された。
訪問した各機関では、日本からの来訪調査はまことに光栄だと謝意で始まり、極めて友好的な応接で説明は予め準備されたVIDEOやOHP等を使っておこなわれた。必ずしも質問事項の答えになっていないこともあったが、自分達の考え方や取り組に理解を得ようという精一杯の意気込みが感じられた。ノルウェーでは竣工間近い「海上環境安全センター」を、オランダではロッテルダム港で設標船によるブイメンテナンス作業と同船により港内状況を視察することができた。各訪問先では、この機会に日本の海上保安庁について知りたいという意向もあってか、多目に持参したパンフレットが好評で手持ち分まで提供してしまった。当方の説明に対しては、海上保安体制(組織と勢力)、SAR区域、教育訓練システム、米国との関係等に質問があった。
今回の調査で、両国には海上保安庁のような一元化された組織はないが、政府のいろいろな組織が連携し合う体制になっていた。ノルウェーでは一部訪問調査ができなかったが、北海における油汚染対応への両国の取組については、現況を把握することが出来たものと思われる。印象的なことは、両国に共通して責任者の発言のなかに幾度も「組織の効率と効果…」という言葉があり、チープガバメントの考えが徹底していることが伺えた。

 

 

 

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