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中世ヨーロッパと帆船模型

東京商船大学教授
庄司邦昭
1509年4月22日、イギリスでヘンリー8世が即位した。この王は1491年の生まれで、1547年に没するまで生涯に6回も結婚した。1533年4月5日にカンタベリー大司教はヘンリー8世とキャサリンの結婚を無効、アンとの結婚を合法としたが、1534年11月に国王至上法とイギリス国教会を成立させるなど、イギリスの絶対王政を確立し、英国史の中では数々のエピソードを残した王として有名である。しかしこの王の功績として忘れてならないのは王立造船所と海軍の創設者ということで、後のエリザベス王朝の海外雄飛の基礎を築いたことである。この頃の軍艦の建造の様子については、ジェイムズドッズジェイムズムーア著「英国の帆船軍艦」(原書房、渡辺修治訳)に詳しく記されているので、ここではイギリスを中心にその内容にしたがってみていくことにする。

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帆船“サンタマリア”

縮尺:1/50所蔵:船の科学館
当時の造船所で帆船を建造する過程においては実際の建造工事が始まる前に、設計図と模型の制作がなされていた。船の設計図についての初期の列としては15世紀のベネツィアでフレームの形状を決めるのに使った記録がみられる。ヘンリー8世はイタリアの船大工をイギリスに連れてきた。したがってイギリスの船大工は、設計図の技法をイタリア人から習ったものと思われる。
1577年、ヘンリー8世は船大工のジェイムズベーカーとピー夕ーペットと他に3人の熟練した船大工をポーツマスに派遣して、軍艦の状態を調査させた。べー力ーとぺットは習得した技術と知識を自分達の子供、マシュウベーカーとフィネアスぺットに伝えた。当時、船のデザインと設計図の技法は秘伝で親から子供に引き継がれていた。現征残っている一番古いイギリスの船の設計図は1586年のマシュウベーカーの作品である。これはケンブリッジのマグダレンカレッジのピープスライブラリーに保存されている。フィネアスぺットは1607年に最初の船の縮尺模型をつくった。かれはそれをジェイムズ1世に献上して大変に喜ばれた。
図面が完成すると、造船所に送って模型がつくられた。イギリス海軍では17世紀初めから模型を作るようになった。1649年からは、軍艦を建造するときにはまず模型を作って検討することにした。模型は承認を受けるために、海軍事務局に送られた。海軍事務局が承認し、海中本部が同意すれば、造船所に建造命令が下り、建造が開始された。初期の模型は船体だけで、外板を張らないフレームの見える模型だったが、彫刻や装飾もつけ、やがて帆

 

 

 

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