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し、この国には50を越える民族が住んでおり、それを14人の構成員に反映することはできない。実際には、そのうちの4分の1にすぎない全住民の10%強を構成する民族だけが代表されるにすぎないことになるというのである(17)。

カラチャエヴォ・チェルケス憲法草案には、共和国の国家評議会議長は共和国を構成する先住民族のなかから選挙するという提案があるという。いかなる民族が先住民族なのか草案は明らかにはしておらず、この先住民族が主要な5つの民族をさすとも受け取れ、そうであれば、他の民族の代表は国家評議会のポストに選挙される権利を奪われることになる。こうなればたしかに、「先住」民族に属する市民の明白な差別ということになる。

クルイロフはいまひとつの事例を紹介している。ブリャーティア憲法は、共和国の国家・法的地位の変更はレフェレンダムにより、「ブリャート民族の市民の過半数を含むところの共和国市民の過半数の賛成がある場合にのみ承認される」と定めている。1989年の国勢調査によれば、ブリャート人は共和国の市民の24%を占めているにすぎない。これでは地方住民の12%がその構成主体に居住する者の圧倒的多数(住民の70%を占めるロシア人を含む)の決定を覆す権利を有するということになってしまう(18)。民族の権利を尊重するというロシア憲法の建前のもとで、「民族問題」が地域化しているといってよい。そしてこうした現実への批判が逆にロシア人の優越的地位の固定化を惹起することにもなる、という問題の構造にも留意しておく必要がある。

 

(5)憲法と地方憲章

それでは、共和国とは異なり、憲法上は「国家」であるとの規定をもたない州や地方についてはこうした問題はないのであろうか。

まず、これらの地方の経済的基礎は、国家的所有の形態をとる地方と州の財産であり、連邦管轄企業をのぞく多くの企業、土地区画、鉱山、天然資源がそこには含まれる。また財政的基礎は、地方税や企業収益その他の収入にもとづく予算、予算外の資金や外貨フォンドとされ、自治体に比して格段の経済能力を保持している。一時期、地方には共和国との同権を求め、さらには「共和国」化を要求する動きがあった。エリツィン大統領の出身地エカチェリンブルグにおける「ウラル共和国」構想や極東共和国または沿海共和国の構想が注目された。新憲法が共和国の「主権」規定を削除したため、地方や州が「共和国」化をあえて要求するパフォーマンスの「活力」はほぼ失われたと思われるものの、「独立王国」化し、地方の権益を主張し、自律的存在であろうとする志向はなお残っている(1g)。

地方や州は、共和国とは異なり、憲法ではなくて独自の「憲章」を定めることとなっているが、「憲法」との差別化は実体的には困難であり、先に紹介したような「憲法

 

 

 

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