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序 調査研究の視点と意義

1 研究の視点

ある国の地方制度のあり方、そしてその行財政の実態についての研究は、これまでの比較研究ないし地域研究の分野においては盲点であったと思われる。まして、その調査そのものが実現できなかった、旧ソ連および東中欧の、いわゆる社会主義国については、まして「鉄のベール」で覆われ、知る由もなかったといえよう。しかしながら、そうした社会主義国においても、国レベルの政治情勢や経済動向についての関心が強く、中央レベルの政治の動きないしその国のマクロ的な経済トレンドの分析には優れた研究も多い。また、農村部の村落における人々の暮らしや社会、家族や生活の実態を調査した社会学的ないし人類学的研究の蓄積もかなりある。

しかしながら、社会主義体制から資本主義体制に転換した、旧ソ連や東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、チェコスロバキア、ブルガリア、ユーゴスラヴィア等の体制移行諸国が、どのような地方制度でもって統治され、どのような機関によっていかなる行政活動が実施されているのかという点になると、いまだに関心も低く、当然、研究の蓄積もほとんど少ない(現在、北海道大学スラブ研究センターにおいて、地方制度の研究が進められている)。しかし、今日、ある国を理解する上で、またその国とさまざまな形で関わる場合に、詳細な政治行政制度の理解を欠いては、その国の真の姿を知ることができないことはいうまでもないであろう。

もちろん、体制転換するまえからこれまでもその国の憲法の条文や関係法令の条文を翻訳したり解説した情報はある程度存在していたし、現在も引き統き盛んに取り組まれている。だが、民主化によって新たに生まれた憲法や法令に書かれていることと現実の政治、行政の姿が同一ではないことはいうまでもない。とくに体制移行諸国の場合には、法令と実態との乖離は社会変革の過渡的な状況も手伝って決して小さくなく、現実の姿を知るには、むしろタテマエとしての法令に描かれた制度と現実とのズレ、そして現実を制御するために行われる制度改革へのフィードバックの実態を明らかにする必要があるのである。

この調査研究でその点にどの程度踏み込めるかはわからないが、これからの旧ソ連やポーランドをはじめとする体制移行諸国の地方制度ないし地方自治の研究の出発点となりうることを期待している。

2 研究の意義

このような研究は、率直にいって、日本の地方自治ないし地方行政を改革していくために役立つ可能性は非常に少ないと思われる。換言すれば、今日の体制移行諸国のさま

 

 

 

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