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第8章 首都機能移転についての憲法問題

戸波 江二

1 はじめに

 本稿は、首都機能移転にともなう新首都地域の地方自治組織のあり方について、憲法の観点から考察することを目的とする。具体的には、首都地域にどのような地方自治組織を設けることが憲法上許されるか、とくに首都地域に特別の組織を設けることができるかどうかについて考察する。考察を進めるにあたって、以下の諸点を前提とする。
 第一は、首都地域の行政組織のあり方に対する憲法的・法律的規律をあまり厳格に考えるべきでないことである。ただし、一方では、地方自治に関する憲法規定はきわめて簡潔であり、その規範的内容も必ずしも明確とはいえず、したがって、そのような憲法規定から、あるべき地方自治の組織を抽象的かつ詳細に演緯すべきではないからである。また、他方、首都移転にともなう新首都の行政組織のあり方については、首都という特質からしても、また、既存の地方自治制度とは異なる新しい組織運営の可能性という観点からしても、弾力的に考えていくべきであるからでもある。
 第二に、とはいえ、首都地域についても憲法の規律が及ぶことは疑いなく、地方自治に関する憲法規定に関する学説の議論の積み重ねもあるので、憲法の地方自治に関する規定の枠を確定しつつ、首都地域の特別の制度導入の可能性の限界を見定めていく必要がある。その際にとくに注意しなければならないことは、首都地域であっても、そこには一定数の住民が住み、生活を営んでいることである。憲法の地方自治の保障の意義が地域の問題を住民の自主的・民主的な自治に委ねることにある以上、首都地域の新制度の下でも、住民のための行政は住民の意思に基づくことが基本的に要請されると思われる。
 第三に、首都地域の行政組織として可能な形態としては、(1)首都地域をどこの地方公共団体にも属しない国の直轄地とし、国が直接に首都地域の行政を行う、(2)同様に首都地域を国の直轄地とするが、その組織・運営を地方公共団体に類似のものとする、(3)首都地域を地方公共団体として編成するが、その組織・運営については現行地方自治法上の地方自治とは異なった特別の制度とする、(4)首都地域を府県・市町村と同様

 

 

 

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