日本財団 図書館


な相手にバトンタッチを余儀なくされたのは、何も今回に限らない。すでに述べたように、約30年前、美濃部革新知事に戦わずして敗れ、副知事の座を去った時も同様であった。戦後、常に都政の舞台回しの役を果たしてきた鈴木は、自らの後任に常に意想外のタイプー前回は“反”の「象徴性」、今回は“非”の「象徴性」を呼び込む運命にあるのかもしれない。

10 むすび

 「都知事」が誕生して半世紀にならんとしている。これまでの知事はいずれも“首都性”の議論を、ハードのものづくり構想か、ソフトのイデオロギー的文脈にしか解消しようとはしなかった。しかしそれも無理はない。「首都とは何か」を議論する以前に、都市化につぐ都市化、一極集中化など「大都市東京をいかにマネージするか」の議論に圧倒されてしまったからである。その意味では戦後復興から高度成長をひた走り、低成長時代に入ってもなお拡大の一途をとげていた間の東京には、とても“首都性”を議論するゆとりなどなくて当然であった。
 時は来たれり。一極集中にハドメがかかり東京の停滞が少し見え始めた今こそ、あらためて「首都とは何か」を議論できる好機ではないか。折しも青島知事は「生活都市東京構想」を打ち出した。もし東京が「普通の国」ならぬ「普通の都市」を目ざすことになるならぱ、首都移転にアプリオリに反対するのではなく、それを可能性の文脈で議論することができるのではないか。がんらい物事の本質についての論争は、勢いの盛んな時代にはまったく顧みられることなく、むしろ勢いの衰えがみえ始めた時代にこそ、真剣にたたかわされるものであろうから。

〈注〉

注と参考文献は、小論の冒頭で掲げた〈1〉〈2〉〈3〉に原則として譲る。

(1)「鈴木俊一東京都知事インタヴュー・都政半世紀への回顧」『都庁のしくみ』(都市出版1995年)。

(2)北岡伸一『後藤新平』(中公新書1987年)。

(3)『東京百年史』第6巻。

(4)田中貞造『都政えんま帖』

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION