日本財団 図書館


中産所得層のDC外流出による税収の停滞傾向の下で、DCの財政破産が懸念されていたが、1995年にそれがついに現実のものとなった。すなわち、財政赤字の増加によって資金不足が7億ドル以上に達する見込みとなったため、債務の返済が不可能になり、同年の2月に連邦政府の会計検査院によってDCの破産状態が宣言されたのである。
 このような状況の下で、連邦政府は、DCの自主再建に見切りをつけ、同年の4月に、DCの財政を厳しく監視し、財政を再建するための財政管理委員会の設置を骨子とする「首都財政責任管理支援法」を成立させた。財政管理委員会は大統領が任命する5人の管理委員からなり、倒産企業の破産管財人のような役割を果たす。この委員会は、日常の資金の出入りをチェックする最高財政責任者と内部監査人の人事権、市長や議会が提案する予算や公務員の雇用や解雇などの政策に対して変更を命令できる権限等が与えられている12)。これにより、DCは財務省から6億6000万ドルまでの借り入れが可能となったが、その代償として、DCは1973年に勝ち取った自治権を事実上大幅に奪われることになったのである。
 DCは同委員会の監督の下で、1998年までに財政を均衡させることを求められており、職員の大規模な削減を骨子とする大幅な改革が進められる見通しである。

6 おわりに

 DCの財政破産という事態に対して、DCを管轄する立場にある連邦政府が介入を強めるという形で解決がはかられている。1975年にニューヨーク市が財政破産の状態に陥ったときも、市を管轄する立場にあるニューヨーク州が財政緊急措置法を制定し、州が市への介入を強めることで財政再建がはかられた13〕。
 DCの財政破産の主たる原因が、DCの放漫財政に起因するのであるならば、DCが自治権の制約を受けるというマイナスの面があるにしても、財政再建のために連邦政府の強い介入を受け入れることが有効であろう。そして、財政が再建され、均衡財政が軌道に乗れば、再び自治権を取り戻すという期待ももてるであろう。
 しかし、財政破産の原因が次のような構造的なものである場合には、連邦政府の介入を通じた解決策は、後で述べるような受益と負担の公平や自治権の確保という観点から望ましい解決策とはならないだろう。構造的な原因とは、他の大都市にもみられる

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION