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第6章 アメリカの首都における地方財政制度

塚原 康博

1 はじめに

 アメリカは、正式名である「アメリカ合衆国」が示すとおり、州が集まって国を形成しており、州の権限がきわめて強い。州は独自の憲法と独自の課税権をもち、地方政府は州憲法やその他の法律の定める範囲内で自治権を有している。連邦制国家であるアメリカでは、連邦政府が州の課税権には介入できず、州は自州の利益よりも国全体の利益を必ずしも優先させるものでないため、課税権をめぐる連邦政府と州の衝突も起きている 1)。
 このように州権が強いアメリカで、首都をある州の管轄下に置くと、州が国の利害よりも州の利害を優先させる恐れがあるため、首都であるワシントンDC(コロンビア区:以下ではDCと略称)は、50州のいずれの管轄権にも属しておらず、連邦政府の排他的な管轄権の下にある。したがって、DCの市政は、連邦政府の立法権に服しており、その範囲内でのみ自由を享受している。
 本論文では、アメリカの首都であるDCの財政的な側面を取り上げ、財政的にいかなる問題が生じているのかを明らかにする。まず、首都建設時における財政負担の問題を取り上げ、次に首都の建設が完了した後の経常的な財政負担の問題について考える。DCの財政を考える上で重要なことは、人口の急激な増加とその後の急激な減少に起因する深刻な都市問題に巻き込まれているということであり、この問題の解決に対して連邦政府直轄の首都であるという点が一部障害になっている。1995年には、DCは事実上の財政破産に陥ったため、これを解決するために連邦政府の関与が強められる結果になった。これについては、本論文の後半部分で言及することにする。

2 DC建設の経緯 2)

 まず、アメリカの首都であるDCの建設の経緯から説明すると、メリーランド州とヴァージニア州それぞれの州議会が連邦政府に対して10平方マイルずつの土地割譲の申し入れを決議し、1791年にワシントン大統領の土地の選定によってDCの境界線が確定

 

 

 

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