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町とすれば、5分の4の他の地権者がやれと言っていますから、かなり正当化できるのです。それに気がついて、やろうということになったのだろうと思います。

ここでは役所と民間が完全に対等となっている。それは町もまた自前の利害得失を計算の上で1主体として行動してよいということでもある。そして公共事業よりも責任が小さい分だけ、自由度が大きく、魅力的なまちづくりを行える可能性があることが示唆されている。

(市村)町の考え方としては、景観行政をやるに当たって、5者でやった町並み修景事業を街全体のトップバッターにしよう。そして条例で規制するのではなくて、実例をつくっていこう。それがいいものなら、多分、他の地区へも影響力があるし波及するだろうと考えたのです。ここから50メートルほど先の角にある自転車屋が、この修景事業をやっている途中に、たまたま店を建て直そうとしたところ、それを請け負ったこの町の建築会社から、町も含めて今こんな考えでやっているよ、だからお宅も建て直さないで、土蔵をリニューアルして再利用したらどうかという話になった。それで自転車屋さんが考えを変えて、本来壊す予定だった建物を壊さずに化粧直しして、そのまま今の店舗になっています。後でそれを聞いて我々がうれしかったのは、その建物は、明治から昭和初期まで小布施銀行という小さい銀行の本店だったのです。さらに言えば、江戸時代は呉服屋さんだったのです。日本の金融史あるいは長野県の郷土史にとっては、小布施銀行などはほとんど意味がないのですけれども、この町の1万2,000人にとっては、この小布施銀行や江戸時代の呉服屋は、重要な歴史の一つなんです。昔は学者の先生を呼んで、これは重要文化財級ですか?、建築史的価値がありますか?というように誰かに価値を決めてもらっていた。それが戦後の日本でした。それが1980年以降はそうじやない、そこに住んでいる人間が、これは意味があるとかそのコミュニティにとってお金をかけても残す価値があるといったように考えていく時代に入ったのではないでしょうか。

(市村)条例というのは両刃の剣で、むしろ逆効果の場合があるのは、条例で

 

 

 

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