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そうすると便益の及ぶ範囲とその便益を支えるための費用負担の範囲が一致する。これはperfect correspondence(完全対応)と言われ、一つの理想的な状態とされている。このような介護ステーションによるサービスの提供以外にも、たとえば自宅でそれぞれの家庭が介護する形や、数軒の家計が共同で看護婦やヘルパーと契約する形や、また市レベルでステーションをつくったり、国レベルでステーションをつくったりといくつかの形態が考えられる。介護ステーションはどのようなカバーエリアを持つべきか。これが都市ないし政府の最適規模の議論である。先述の「分権化定理」からは、類似の選好を持つ人々が同一の地域に居住している場合ほど、その地域を一地方政府がカバーすることが望ましいものとなる。分権化定理では基本的に、供給するエリアが大きくなればなるほど配分のロスも大きくなるのであり、1人1人の選好が異なっているのであれば、究極の形態は、各人を単位とすることである。これと反対のものが、規模の経済性の問題である。多人数で施設やサービスをシェアするほど1人当たりの費用が安くなるというものであり、費用負担という点からみて、意思決定や行政単位の規模は大きければ大きい程よい。しかし、たとえば1人から2人へと人数が増えるとき、1人当たりのコストは半減するものの、規模が大きくなるにつれてコスト削減の効果は逓減していく。そしてついには規模の経済性は消滅して、逆に資源配分ロスの増大によるマイナス効果が大きくなり、結果として最適なポイントから遠ざかってしまう。したがって以上の2つの効果がちょうどバランスがとれる辺りが最も望ましい都市規模ということになる。また各地域における費用の問題には、近隣地域からの便益のスピルオーバーも関係してくる。A町に介護ステーションがあっても、隣のB市に老人ホームやデイサービスセンターがあれば、それらはA町の介護に対する需要のなにがしかをカバーする。そうなるとA町の介護ステーションには遊休部分が生じることになる。スピルオーバーが大きいとき、効率性の観点からは、A町、B市を1つの自治体として構成すべきという議論が出てくる。

 

 

 

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