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はじめに

21世紀の本格的高齢社会の到来を目前に控え、現在、国民の9割が老後に不安を持ち、その中身は「自分や親が寝たきりや痴ほう症になること」がトップとなっている(平成5年総理府の世論調査)。
地方公共団体においては、ノーマライゼーション思想の浸透や住民の健康・福祉に対する意識の高揚を背景に、施設・在宅の福祉サービスの一層の充実はもちろん、保健・医療・福祉が一体となった新たな行政施策の展開が求められている。
また、この分野は住民生活にもっとも密着した行政分野として、地方分権への取組みが先行的に行われており、まさに地方分権の試金石といっても過言ではない。
そこで、それぞれの地域の多様性に即した独自の取り組みを行っている自治体の事例を通じて、コミュニティにおける在宅介護のあり方等、今後の地方公共団体における高齢老福祉施策のあり方について検討することとする。
なお、現在、介護保険法案が国会で審議されているが、本冊子の編集の時点では制定されていないので取り上げていない。
1 石川県金沢市(県庁所在地の事例)
金沢市では、古くから「善隣館」を拠点に民生委員・児童委員を中心としたコミュニティ福祉活動が活発な土地柄であるが、高齢化社会を迎え、『ノーマライゼーション社会の実現』、『自立度の高い豊かな生活環境の実現』、『ともに築く福祉のまちづくり』を基本理念とした「福祉プラン21金沢」を策定し、行政と民間の協力、市民の連帯性という金沢市の特性を活かして、地域福祉活動のより一層の推進を図っている。
2 兵庫県伊丹市(大都市近郊都市の事例)
伊丹市では、「ふれあい福祉公社」を設立し、また、地域の社会福祉団体や市民の自主的な活動との連携を通じて、地域福祉体制の確立を目指して各種の福祉施策を展開している。
とりわけ、要援護高齢者対策に重点を置いた「サンシティゾーン」は、高齢者が生き生きと暮らせるコミュニティゾーンとして整備されたものであり、地域に根ざした福祉の拠点として、また、世代間交流の拠点として、重要な役割を果たしている。
なお、平成7年7月に策定された伊丹市震災復興計画は高齢者や障害者等の災害弱者に対する対策を念頭に置いたものとなっている。
3 宮城県涌谷町(農村地帯の事例)
涌谷町では、町民ひとりひとりが「安らかに生まれ」、「健やかに育つ」ことができるまちづくりを目指すため、「健康と福祉の丘」構想のもと、保健・医療・福祉の各担当部署を統合した町民医療福祉センターを拠点として、保健(予防)・医療・福祉(介護)施策をシステムとしてうまく連携させ、その総合的な展開を図っている。
4 広島県総領町(中山間地の事例)
総領町の高齢者福祉総合センター「ユーシャイン」(運営主体は社会福祉法人総領福祉会)は、弱者の視点から「はじめに利用者ありき」との姿勢をとりつつ、小規模多機能に徹している。最少の人材で最良のサービスを提供するために、職員には、ケアもできて調理もできて、ホームヘルパーとして地域へも出て行くというように職域にとらわれない発想と能力を要求。その運営形態は、中山間地域のみならず、都市部においても十分応用可能な、施設を拠点とした在宅福祉施策の展開のモデル的な事例として注目されている。

 

 

 

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