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?.中国における寄生虫症対策の調査と学術交流
太田伸生
筆者は1996年12月14日より12月27日まで中国に派遣され、中国国内の寄生虫症の実態、寄生虫学研究の現状および今後の共同研究の可能性などについての意見交換と学術交流を行った。本事業では10年余にわたって中国国内各地の寄生虫学研究部門への派遣実績があり、今回の筆者の特に意図したことはこれまで日本との交流実績の少ない大学・研究所との交流であった。今回の訪問機関は天津医科大学、天津中医学院、雲南省大理州血吸虫病防治研究所、四川省寄生虫病防治研究所、中山医科大学および第一軍医大学であり、学術交流とセミナーを行ってきた。
中国は経済の面からも南北間の格差、沿岸部と内陸部の格差が指摘されるが、寄生虫学研究の面でも地域によって大きな違いが感じられる。北京については今年度は金田教授から詳細な報告があることと思うが、北部の工業都市である天津では寄生虫病が実際の保健行政の対象外ということもあって、研究の活性度は高くはない。こじんまりと堅実に研究が行われているというのが印象である。内陸部は多彩な寄生虫相が今日なお濃厚に認められることから、実際の寄生虫防除をめざした行政機関付置研究所の果たす役割がきわめて大きい。しかし研究者層の世代交代にともなってフィールドの仕事のみならず実験科学としての寄生虫学研究への移行も進みつつある。南部沿岸部では実験室内の寄生虫学研究、特にマラリアのワクチン開発を目指した研究の進展が著しい。日本国内の寄生虫学研究施設とあまり違わないと言うのが第一印象である。高度に専門化された研究に進むことは世界の趨勢ではあるものの感染症学の対象としての寄生虫を見なくなる弊害を考える必要もあろうかと思った。
近年中国の解放政策にともなって学術交流の面でも状況はかなりオープンになっているが内陸部ではまだ生物資料の持ち出しに制限が厳しい所も残っている。それでも訪問した機関ではいずれも日本を含む国外研究者との交流を希望しており、内外の学術情報の浸透もかなり進んでいる。一方で中国国内で行われている研究が国外に伝わらないことも指摘されてよいであろう。それは発表の場が中国語の雑誌に限られることによるが、ユニークで興味ある研究・情報がかなり蓄積されているだけに残念である。日中間の学術交流の進展が中国国内の研究成果をオープンにすることになればそのことが交流の第一の意義となることは間違いない。雲南省大理の住血吸虫病研究所を訪問した日本人寄生虫学専門家は筆者が初めてであるとのことであったが同研究所はすでにタイのマヒドン大学熱帯医学研究所との交流をすでに開始している。この研究所でも日本からの専門家の来訪を歓迎するとのメッセージをいただいた。交流の場を一つ一つ築いて行く努力を続けたいと思う。
今回の訪問機関についての紹介と研究活動についてここにまとめたので参考としていただけるならば幸いである。

 

 

 

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