ジャカルタ首都圏鉄道近代化事業の成果と課題

 

東京大学工学部 教授 家田仁

 

(1)1980年代に企画されたJABOTABEK鉄道プロジェクトは、その後の10年間で、基本的には着実に遂行され、中央線・Bogor線の12分ヘッド電車運転開始に認められるように、ジャカルタ近郊における郊外通勤鉄道輸送を端緒につけ、大都市における大量通勤鉄道のもつ潜在的ポテンシャルを明らかにした。中央線の連続立体交差化による都市内交通混雑の軽減、多くの新駅設置によるアクセシビリティ向上の成果も少なからぬものがあった。

 

(2)現在のところ、JABOTABEK鉄道全体では、単線区間が多いこと、電車編成の不足、運転保安設備の不足などから輸送力が制約され、都市圏の交通総量の上では、限られたシェアを持つのみではあるが、整備が相対的に進んだBogor線、Bekasi線などでは、高速性・多頻度性などが改善されたことから、鉄道輸送のシェアは大きく伸び、旅客の乗車率も定員の300-400%に達する状況となっている。また、その輸送需要の経年的な伸びも顕著である。さらに、鉄道サービス水準の向上に加えて、都市部での交通渋滞悪化などのため、中間層のパークアンドライド型の鉄道利用も拡大する顕著な動向を見せている。

 

(3)しかし、JABOTABEK鉄道は、基本的には長距離幹線鉄道をべ一スとする既設の鉄道路線の上に成り立っており、都市から30−40km圏と都心を結ぶ、東京でいえば放射型の郊外通勤鉄道に相当する通勤旅客輸送機能は発揮しうるが、東京の地下鉄網に相当する都市内鉄道という側面に不足し、面的に拡がる都市業務地区へのアクセス性が低いということが、大きなウイークポイントになっている。

 

(4)また近年、国鉄の営業上の中核におかれている高速幹線列車と、JABOTABEK鉄道の郊外通勤列車が同一の線路上あるいは同一駅上で運転競合していることが、輸送力増強上、定時性確保上、大きな制約となっている。

 

 

 

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