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運航部 川間格
Itaru KAWAMA
船。それは人類が初めて造った乗り物と言われ、太古の昔から船乗り達は、風を友とし星を頼りに大海原を駆け巡ってきました。しかし船上生活は過酷な労働環境の上、常に危険と隣合わせであり、命を落とす者も多くありました。それゆえに船乗り達には縁起をかつぐ者が多く、科学技術が発達した今日でさえ古くからの言い伝え(ジンクス)が受け継がれています。深海に向かう一歩手前の海面上の話ではありますが、今なお多くの船乗り達によって語り継がれている言い伝えを、それらの所以も交えてほんの一部ですが紹介してみたいと思います。
口笛と悪魔
天気は上々船は快調おまけに仕事は絶好調、こんな日は甲板に寝ころんで口笛のひとつでも吹こうかといった気分になります。ですが船の上での口笛は昔から「悪魔を呼び嵐を呼ぶ」と言われ、絶対にしてはならないことなのです。はたして本当に悪魔が来るのかどうか、ということはさておき何故この言い伝えが船乗り連の間で今も生きているのか、そこにはれっきとした理由があります。
船上で作業する際、笛を使った号令(号笛)が多く使われます。そして「ロープ巻け」「ロープ伸ばせ」など幾種類もの笛の吹き方があり、作業にあたる者はそれらを聞き分けなければなりません。号笛の聞き違えは命の危険や船全体の危険につながります。ですからまぎらわしい口笛は船上では禁止なのです。口笛はちょうど風が吹く時の音に似ていることから、おそらく「嵐を呼ぶ」という言い伝えになったのでしょう。また号笛云々と言うよりも悪魔のせいにした方が当時の船乗り達に効き目があったのかも知れません。なにより海の果ては滝になっていると信じられていた時代の話ですから。ちなみに、セーラー服の後襟があのように広く大きくなっているのは、頭の後ろに立てて風の強い時などでも号笛を聞き分けられるようになっているからです。今日なお多くの船乗り達がこの言い伝えを守っていますが、その代わり、機嫌のいい時に鼻唄を歌う船乗りが割りと多いのは、もしかするとそのせいなのかも知れません。
時鐘と海坊主
昔は船内に時間を知らせるのに鐘を用いていました。現在のような時計が発明される以前は30分用砂時計で時間を計測し、30分母に鐘を叩き1〜8回の鐘の回数(点鐘)で時刻を表していました。例えばO時半が1回、1時は2回と続き4時の8回で1巡して4時半にまた1回に戻る、といった具合です。船の当直は4時間交代の3直制なので、各当直は8点鐘に始まり8点鐘に終わるようになっています。ところが、夕方6時〜8時の間は少し違っています。夕方6時の4回の後、6時半は1回に

 

 

 

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