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海からのたより

深海へ行こう!

−深海潜水調査船とともに14年−

運航部 田代省三
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「しんかい6500」は、全長9.3m、幅2.7m、高さ3.3m、空中重量26tで、「神奈川3410号」という船尾のナンバーから分かるように日本の法規上、モーターボートや沿岸漁船と同じ小型船舶である。そのため我々パイロットも操縦するための資格としては小型船舶一級の免許ということになっている。ただし、この免許を持っていれば誰でも操縦できるがといえばそれは不可で、我々「しんかい6500」の操縦を任されている者は、運輸省にそれぞれの訓練時間やその後の乗船履歴などの届けを行っている。日木にはほかに潜水船がほとんどないことがら、免許がないというのが正解であろう。もちろん、こんな小さな船ではるか大西洋まで行けるはずもなく、いつも母船の「よこすか」に搭載され移動する。
「よこすか」は、全長105m、幅16m、総トン数4,439tの各種の海洋観測機器を装備した日本でも最大級の調査船で、最大搭載人員は研究者、潜水船のオペレーターそして「よこすか」乗組員あわせて60名で、調査航海のときはほぼ満員で航海することになる。「しんかい6500」は

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写真-1 マリアナ海溝6,500m海域で潜航開始直後の「しんかい6500」

「しんかい2000」と比べ潜航深度が深いことからはるか沖合での調査が多く、一度港を出港すると約1か月とこの港にも入らない航海が多い。そんなことからも「しんかい6500」だけでなく調査行動中の60人の生活の場でもある「よこすか」は、正に母なる船である。
「しんかい6500」のキャビン(船室)は、耐圧殻と呼ばれるチタン合金製の真珠で内径は2mちょうど、肉厚は73.5mmもあり、水深6,500m, 680kg/cm2の水圧から中の人間を守っている。この水圧がどれほどすごいかというと、「しんかい6500」の耐圧殼が6,500mの海底では2mの直径が5mmほど縮んでしまうそうだ(もちろんあまり気分のいいことではないので潜航中計測したことはないが)。この強靭な耐圧殻のおかげで船内は、絶対圧で1kg/cm2の大気圧に保たれ、また3人の人間が消費した酸素を純酸素のボンベから補充し、二酸化炭素を水酸化リチュウムの穎粒が吸収するため船内の環境は地上と全く同じである。したがって、特殊な訓練を受けた人でなくても、安全に深海底へ旅することができる。
これら圧力に無力な人間や電子部品を除き、船体後部の主な機器は均庄構造で出来た容器に詰められている。電気部品は絶縁油を満たした容器内に浸し、油圧系統はその作動油全体を海水から遮断し、圧力だけを均庄フラダと呼ばれるゴムのシートで容器内に伝える方法とすることで、重量の重い耐圧容器を極力減らし潜水船自体の重量を軽減している。これら均圧構造の主な機器は、電池、各種電動機とそれらの配電盤、インバータやケーブルそして油圧装置一式となっている。動力源は、2基搭載された酸化銀亜鉛電池からのエネルギーを使い各種の電動機等を動かし、海面から海面まで約8時間の潜航を可能としている。
観測機器としては、マニピュレータ、グラバ、TVカメラ、スチルカメラやCTDVと呼ばれる海底の環境計測装

 

 

 

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