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深海開発技術部

−JAMSTEC唯一の技術者集団−

 

深海開発技術部

 

1. はじめに
一般の人たちに馴染みのある海の姿とは、海岸に波が打ち寄せ、透明度のよい日には海底の様子が手にとるように分かり、引き潮の時の磯辺にはイソギンチャクやヒトデが顔を出す、……そんな光景ではないでしょうか。
よく、海は海水というべールに覆われた神秘の世界だと言われます。確かにその通りだと思います。しかし、上のような馴染みのある海を含め、人が生身の体で潜れる深度までの海(ここではこれをあえて浅い海といいましょう)については、先人たちの多大なる苦労のおかげもあって今日までに様々な現象が把握され、その仕組みが解明されてきました。
さて、このような浅い海で得られた知見はさらに深い海への興味をかりたてるものです。ましてや、海洋全体を見れば、大陸棚より深い水深を有する海域の面積は約90%にもなります。どこからが深海と呼べるのかというと、その定義は、物理学、化学、生物学、そして、生理学の分野によって若干異なってきますが、いずれにしても、平面的にみれば地球の表面積の70%は海洋であり、深さ方向についてみればそのほとんどが深海であるといえるわけです。地球を知るためには深海を知らなければならないといっても過言ではないでしょう。
当センターにおける深海研究の内容については、前号(通巻第31号、27〜35ぺージ)を参照していただくとし、ここではこれを受けて深海開発技術部の紹介をいたします。端的にいえば、当部では深海を研究するために必要となる海中機帯の開発を行う部であるということになります。3章から、具体的に今までの成果や、現在着手している技術開発、今後計画しているプロジェクトなどについて紹介しますが、その前に深海技術の困難さについていささか述べることにします。
2. 深海技術の困難ざ
まず、第1に挙げられるのは高圧力です。水中では10m潜る毎に圧力が1気圧、約0.1MPa増大します。海洋の平均水深は約4,000mですから、もし、この平均的な海底にいるならば約40MPaの圧力がかかり、これは親指先ほどの面積に小錦級の力士が1.5人も乗っていることになります。もちろん、種々の電子部品の中にはこの程度の圧力には十分耐えて作動するものもありますが、ほとんどの部品は、深海へ持っていく場合、周りの高圧力から守るために耐圧容器に収納しなければなりません。
この耐圧容器がくせ者で、容器を設計する場合、小型、軽量化には十分留意する必要があります。なぜなら、例えば、深海を探査する潜水船を考えてみますと、潜水船にはいろいろな耐圧容器が装備されることになりますが、これらの耐圧容器が大型、大重量になると、これらを搭載して水中で運動するためには、より大出力な推進器が必要になります。すると全体が大きくなるわけで、推進器の出力をさらに増大しなければならず、ますます大きくなってしまうわけです。逆に言えば、少しでも小型、軽量化にできれば、一石二鳥どころか、一石三鳥も四鳥もメリットが増幅するというわけです。そのため、収納する部品を極力小さくすること、構造的に小さな形状とすることのほかに、比強度(強度対重量比)の高い材料の選定が望まれるわけです。これに加え、海水中で使用することも考慮に入れれば、「軽くて、強くて、腐らない」材料の開発が重要になってきます。
次に、海中では光や電磁波の減衰が大きく、長距離伝搬が不可能であることも今まで深海への道を閉ざしてきた大きな原因のひとつです。大気中では光や電磁波が十

 

 

 

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