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海洋中に漂うさまざまな有機物

−マリンスノーから微小コロイド粒子までの動態−

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東京大学海洋研究所 小池勲夫
Isao KOIKE
略歴
1944年東京都に生まれる
1967年東京大学理字部地理学科卒業
1969年東京大学理学部植物学科卒業
1976年東京大学海洋研究所助手
1988年東京大学海洋研究所教授 現在に至る

 

1. マリンスノーによって深海へ運ばれる大気中の二酸化炭素
「しんかい2000」に乗って潜る研究者のだれもが,投光器に照らされ浮遊しているおびただしい数の大型の懸濁物に驚かされる。特に私たちのように普段,採水器を使って同じような海域で採水を行い、数リッター程度の海水では目に見えるほどの懸濁物がほとんどないことに慣れているものにとっては、これまでの世界観が変わるほどの体験である。このように肉眼でも観察することのできる大型の懸濁粒子は、1950年代の前半に北海道人学で開発された潜水球で観察した研究一者たちによって,「マリンスノー」と名付けられた(写真−1)。この命名は潜水艇の窓から外を眺めた人々の実感とよくあっており、現在では肉眼で観察することのできるサイズの海水中の懸濁物を一般的に言葉として普通に使われるようになった。後で述べるようにこのマリンスノーは海洋に生活する微細な生き物の死骸などが集まって出来たもので、その中に無数のバクテリアやそれを食べる原生動物などが生活しているいわば“海の小さなオアシス”である。同時にこれらが炭素を主成分とする有機物の塊であることから、海洋での炭素の循環に大きな役割を果たしているものとして最近特に関心が持たれてきた。
海洋中にはマリンスノーをはじめとして様々な大きさや形を持つ有機物が存在している。私たちは長い問それらの中で大きさが約O.6−1,0ミクロンの孔を持つフィルターを通過するものを溶存有機物、フィルターにつかまるものを懸濁あるいは粒状有機物と呼んできた。この粒状有機物は生物そのものである場合もあるし、生物が死んだ死骸や、沿岸では陸上からやってきたものも含まれ

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写真−1 駿河湾の中層のマリンスノーの写真(辻義人ほか,1991)。(A)カメラの焦点距離までの間の海水を除去した時のマリンスノーの写真。(B)艇外をそのまま写した時のマリンスノーの写真

 

 

 

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