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第9章 都道府県と市町村との人事交流

 

市川喜崇

 

1.はじめに
都道府県と市町村間の人事交流について論じることが本論のテーマである。
これまで、国と都道府県との人事交流については、しばしばその非対称・不平等性が批判されてきており、とりわけ、中央省庁から都道府県への出向人事については、「天下り」として、強く批判されてきた。入省わずか数年に満たない20代の中央官僚が課長として天下り、年長の部下を従える様は、中央集権の象徴と考えられてきた。学界における通説も基本的にこうした立場に立っており、?@地方採用者の士気を阻喪させる、?A「腰掛け」的存在であるため充分な成果を挙げられない、?B知事の人事権を事実上剥奪している、などの批判がなされてきた1)。
「天下り」を日本の中央集権体制の象徴とみなして批判するこうした見解に対して、最近では、「天下り」を中央が地方に人事を押し付けているとみるのではなく、むしろ地方の側が戦略的に中央官僚を受け入れている側面を重視する見解が現れている。村松岐夫は、地方は中央省庁から人事を押し付けられていると見るのは一面的であり、むしろ、地方のリソースを増大させる手段として中央官僚を積極的に迎え入れているのだと主張する。「地方レベルに天下った官僚は地方官僚として行動するのであって、これらの官僚の個人的コネクションはむしろ、地方の側の政治的資源となる。だから、地方(府県)は、しばしば有能で幅広いつきあいのある、中央にたいして説得力をもつ官僚が中央から『天下って』くることを望むのである」2)(括弧内は原著者)。前者が、「天下り」における中央と地方の関係をゼロ・サム的にとらえ、一方の不利益において他方が利益を得るという理解であるのに対して、後者の場合、「天下り」は、両者がともに得をするポジティブ・サムの関係であると考えているといえよう。
このように、中央省庁から都道府県への出向人事については、二つの異なる見解があるが、おそらく、現実的には、この二つのどちらか一方ですべてを説明できるというわけではないように思われる。すなわち、しばしば指摘されているように、「天下り」のポストの中には中央省庁の「取り分」として運用されているいわゆる「指定ポスト」があること

 

 

 

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