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第2章 水平的政府間関係と広域連合

 

村上芳夫

 

1.はじめに
地方分権推進委員会の第1次勧告が1996年12月に答申され、地方分権の実現が日程にのぼってきた。答申の目的は、住民の自己決定権の拡充や民主主義の活性化をめざすことである。そのためには、国と自治体の関係を主従関係から対等・協力関係に転換し、機関委任事務を廃止し、国、自治体間の関係調整ルールの創設などの制度改革がはかられなければならないとある。それが意味するのは、55年体制の<制度運用の変更>ではなく<制度そのものの変革>であって、国と自治体の関係の非対等性とその運用を規定している法制度の枠組みそのものが限界だという視点である。
行政学においては、伝統的な法制度論に立脚した集権。分権概念に問題があるとされてきた。第1に、法制度上の権限は潜在的資源であって事実上(政治上)の権能ではないこと、第2に、制度改革の政治(交渉)過程が問題にされることなく集権・分権の主体は自治体でなく国だけにあるとする、第3に、制度運営も双方向でなく国から自治体への1方向コミュニケーション(要綱、通知・通達)、第4に、国・自治体の一体性という錯誤的な前提に立っている、といった指摘がされてきたのである。法制度論的な集権・分権論に代わって、政府間関係論的概念の導入により、最近では政府間関係の基本構造が相互依存に求められるようになってきた。集権・分権は、制度上の権限の問題ではなく、事実上の権能、影響力を含む政治・行政権力の地域分布の問題に代えられてきたのである1)。換言すれば、こうした視座の転換は、政治過程としての政府間関係を分析することを可能にし、環境や情報の行政分野での自治体の政策イノベーション、行政運営の上の自治体の裁量の大きさ、政策策定・実施での政府間交渉、地方行政官の中央政府に対する意識・態度などを示す数多くの研究を生んできた。
にもかかわらず全体的にみて、政府間関係が対等だという実感が依然として乏しいのは何故であろうか。その回答の一つとして、西尾勝がいう「集権・分権を制度上の権限問題と考える法制度論の集権・分権概念は捨て難い価値がある」2)という見識は大きなヒント

 

 

 

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