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第3章生命に学ぶエネルギー革新

 

3.1 21世紀技術革新論

電気エネルギーによる産業技術は、20世紀に至って長足の普及を遂げた。電力システムの基本コンセプトは、19世紀末から20世紀初頭に活躍したニコラ・テスラによるものと言われている(図3−1)。テスラは、世界システムと称する電力と情報を世界の遠隔地に伝送する技術を構想し、このうち電力については交流モーターの発明から交流システムによる遠距離送電を実用化のレベルにまで引き揚げた。しかし、この電力を集中的に発電し、不特定多数の遠方のユーザーに供給するシステムは、その規模の拡大によって様々な社会的、政治的問題を生み出すことになった。石油資源の枯渇、地球環境問題、原子力問題さらには、発展途上国の工業化に伴う南北問題がそれである。
さて、一方現代の科学技術は、生命科学の進歩に大きな影響を受けている。生命の優れた機能を工学に生かそうとする発想がその基にある。資源の枯渇、地球環境問題をへて、今世紀初頭における技術観と現代のそれとの間には、明らかにその目指すところが異なってきた。ここでは、エネルギー技術の立場から生命のエネルギー利用を見直すことを問題とし、人類のエネルギー変換技術に役立つようなエネルギーコンセプトを「L(Life)−エナジェティクス」と呼ぶことにする。生命は、進化の歴史を通じて地球環境との調和を図ってきており、近年の生命科学の進歩によりそのエネルギー利用の実体がかなり具体的に解明されるようになり、その基本は太陽エネルギーと水素エネルギーを活用した化学反応にあることが分かってきた。エネルギー分野における技術革新の方向性を導き出すにあたって、現代の技術感を一新してしまったエレクトロニクス革新を振り返って、L−エナジェティクスの意義を明らかにしてみよう(三菱総合研究所、1996)。
コンピューターに代表されるエレクトロニクス革新は、次のように技術に対する考え方を変えてしまった。機械部品を例に取ってみよう。機械を作る部品が小さくなり、部品の数が多くなればなるほど、その機械は壊れやすく高価なものとなる。ところが、半導体技術の世界では、万事が小さくなればなるほど良くなり、集積度の高いものほど安くなり、そして多量になればなるほど故障や欠陥の数が減るのである。全く違ったテクノロジー観に達してしまった。これがマイクロイノベーションと言われる所以である。
エレクトロニクスに関連した今世紀の科学的成果を調べてみると、ノーベル物理学賞にその核心を見ることができる。まずは、陰極線すなわち電子の発見(1905)に始まる電子論。ブラッグ父子によるX線回折(1915)の発見によって飛躍的に発展したX線結晶学。光電効果(1921)、光量子(1927)の発見およびレーザー(1964)の発

 

 

 

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