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(2)ヒューマンエラーの防止
船舶技術研究所 足達宏之
安全基準にソフト面での規制を行う方向が示されているが、現時点は基準にヒューマンファクターを考慮することの技術的問題の分析の段階にあるのではないか。何をもってヒューマンファクターであるかの定義は困難であり、一般的な常識の範囲内で検討する事にする。ヒューマンエラーの防止のため乗員を過度の疲労から保護する措置、また輻輳する交通海域での交通ルールの導入等は、ヒューマンファクターの要素に関連するヒューマンファクターそのものではない。しかしながらそれらの措置の成立にはヒューマンファクターの要素が考慮され、その技術的問題の分析がなされていると考える。
ヒューマンファクターの広域的な問題の解決の一つとして、教育、訓練、管理があるが、これには多くのレベルがある。IMOの付置教育機関であるWMUに代表される全世界的な基本戦略のレベルから、各会社レベルでの教育、訓練、管理のレベルまで多層化されている。どこに視点を置くか、また教育、訓練、管理の精神的レベルのパラダイムをどのように規定するかにより、ヒューマンファクターの捉え方が異なるという問題があり、方向性を決めるには何らかの考えが必要とされる。例えば、乗員の運航における責任の捉え方、社会的理由による船員の混乗化に伴うヒューマンファクターの解決策、大規模事故の経済的リスクと安全コストのバランス等それぞれ高いレベルの考え方が要求される。これらの問題に含まれる技術的なものの一部は、多くの具体的な問題の分析によりシステム化され、文書化された形で解決されるものと思われる。
ヒューマンファクターによるエラーと安全性の面から見た高度自動化等による航海性能の改善の方向は、単純ミスの発生防止に有用であるか。そうであれば、このような技術的方向を基準にどう反映させる事が可能かという問題がある、シミュレーション技術を含めたマンマシーンインターフェースの目的とするものは何か。航海性能の改善によるミスの防止、事故対応訓練による事故規模の拡大防止が当面の目的であるように思われる。ここではシミュレーション技術および航海援助装置と呼ばれるものがマンマシーンインターフェースの核心的なものであると考える。各種警報装置、統合化船橋、シミュレーター装置等がそれらのハード的な物であり、単純ミスの発生防止、事故の防止に何らかの効果があるものと直感的な意味で納得しうるものである。しかしながら、船舶の運航の機能と関連する物であるので、運航システムの全体の中で何がどの機能とどのような責任のレベルにおいて関連するのかの定義が必要であると考える。しかしながら、このような定義をする事に我々は多くの経験を持っていない。また運航の仕組みの定義により安全性のレベルがドラスティックに変化することがある。サブスタンダード船の排除により、これらの船を安全に運航しなければならないシステムが省略できる。

 

 

 

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