第4章 運航性能の評価
4.1運航性能の評価法
船舶の操縦性能暫定基準がIMO(国際海事機関)の総会で採択され、平成6年7月1日より適用されている。この暫定基準には船舶の満載状態での旋回性能、初期旋回性能、変針・保針性能、停止性能が取り上げられ、各々の指標についての基準値が定められている。
一般に、満載状態の操縦性能を評価する場合、その方法としては大きく分けて次に示す三つの方法が考えられる。第一の方法は、過去に建造された船の海上試験等のデータを蓄積・整理して、このデータを基に操縦性能を推定する方法である。第二の方法は、自由航走模型試験により操縦性能を直接計測する方法である。第三の方法は、数学モデルを用いたシミュレーション計算により操縦性能を推定する方法である。
第一の方法は、その推定精度がデータの精度に左右されると言う問題はあるが、推定方法が簡便であると言う利点もある。この方法には、二つの方法が考えられる。一つは整理されたデータから直接満載状態での性能を推定する方法であり、今一つは、予め何らかの方法で満載状態とバラスト状態あるいはヘビーバラスト状態の操縦性能の相関を表現する近似式を作成しておき、バラスト状態あるいはヘビーバラスト状態における試験結果を用いて満載状態の操縦性能を推定する方法である。
第二の方法は、操縦性能を直接計測することが出来る為有用な方法ではあるが、模型船を製作する必要があり、また模型試験の実施には時間、費用、労力が必要となるため、実用的な観点からはあまり得策でない。
第三の方法には、図4.1.1に示す二つの方法が考えられる。
図4.1.1 満載状態の推定方法
まず一つめとしては、図中?に示すシミュレーション計算によって直接推定を行う方法であるが、この場合にはシミュレーション計算に必要となる実船の操縦運動を表す数学モデルの各種パラメータの精度良い推定が不可欠となる。しかしながら、これらの各種パラメータを全ての船型、全ての載荷状態について精度良く推定することは、実用的にはまだ無理がある。二つめの?に示す方法は、バラスト状態において実施された海上試験から得られた結果を基に、操縦運動を表す数学モデルのパラメータを決定し、これらのパラメータの中に満載状態とバラスト状態の相互関係を示す因子を含めてシミュレーション計算を行い、満載状態の操縦性能を推定する方法である。
そこで本章では、実用的な観点から、策一の方法のうちの後者の方法(前者の方法については、第2章でその検討結果が述べられている。)及び第三の方法のうち?の方法について研究を行った。このような満載状態における操縦性能を推定する実用的な評価法と言う観点からの系統的な研究は、まだ少ないようである。それぞれの研究の概要と成果を4.2節、4.3節に示す。
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