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5 成果の活用等

ここでは、本研究で得られた成果の新造船計画や基本設計段階における活用について考えてみたい。本研究では、フレームライン等細かな船型要素を考慮した操縦性能予測技術の確立が大きな目標の一つであり、すでに述べたようにこの目標に対して大きく前進することができた。本研究の意義は、「船尾形状のU型、V型に代表されるフレームライン形状が操縦性能に大きな影響を及ぼす」、逆に言えば、「フレームラインによって操縦性能をコントロールできる可能性がある」という認識を持ち得た点に、むしろあったのではないかと考えられる。すなわち、「抵抗・推進性能だけでなく操縦性能も考慮した船型設計」という従来からの命題が、本研究を通してかなり現実性を持ってきたと考えられるからである。
その理由の1つは、操縦流体力の理論計算法が実用的なレベルに近づいたことである。本研究で検討した細長体理論による方法およびCFDによる方法は、いずれも模型実験で得られたフレームラインの操縦流体力に及ぼす影響を良く説明しており、少なくとも船型間の針路安定性の比較等には十分な実用性を有していると考えられる。細長体理論による方法は、入力データ作成の簡便さや計算時間の短さが特長と考えられ、設計段階での針路安定性能のチェック等に対する実用的なツールとして活用されることとなろう。一方、CFDによる方法は、抵抗・推進性能と操縦性能を同じ土俵で評価できるという点において特に効力を発揮できるものと思われ、船型開発等の局面における両性能闇のトレード・オフの問題を含めた性能評価用ツールとして今後活用されることとなろう。いずれの方法にしても、これらのツールをより有効に活用していくためには、線図システムとの接続等による入力データ作成の効率化も重要な課題にあると思われる。
また、本研究で得られた各種模型試験データも、肥大船の設計や船型開発を進めていく上で、重要な指針や方向性を与え得るものと考えられる。本研究では模型試験結果をべースに、船尾フレーム形状を代表するパラメータにより線形微係数を推定する方法を提案したが、この方法は設計の初期段階でおよその操縦性能(主として針路安定性能)をチェックする方法として利用できるだけでなく、抵抗・推進性能と操縦性能を両立させる船型設計を行う上で主要目や船型パラメータの選定に利用することも可能である。一方、操縦運動中の船体まわりの流場に関しても詳細な計測データが得られ、船型と操縦性能の関係を物理的に解明していく手がかりとして、またより優れた理論計算法の開発にその検証データとして、今後幅広く利用されるものと期待される。

 

 

 

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