日本財団 図書館


 

4 成果のまとめ

(1)模型試験
操縦運動およびこれを計算する流体力の推定精度検討に必要なデータを得るため、同一主要目で船尾フレームライン形状が異なる3隻のVLCC船型を中心に、自由航走模型による操縦性能測定試験、拘束模型による流体力測定試験、および圧力・流場測定試験を行った。
自由航走模型試験においては、保針性能に3船型の差が強く現れ、船尾フレームライン形状がV型の船型では針路安定性が著しく低下することが判明した。拘束模型試験においては、旋回および斜航運動時の船体に働く流体力、船体・プロペラ・舵間の干渉について、船型による違いが数値として明確に得られた。また、圧力・流場の計測結果からは、船尾フレームライン形状の違いが船尾付近の流れ、特に縦渦の強さを変え、船尾の圧力分布をも変えることが判明し、これら一連の実験結果から、船尾フレームライン形状の違いが、船の針路安定性に大きく影響する過程が明らかとなった。
これらの実験で得られたデータと知見は、以下の船舶に働く流体力の理論計算による推定法とデータベースに基づく推定法の検討の他、CFDによる高精度の流場推定法の検討に用いた。
(2)流体力の理論推定
上記の模型試験結果を基に、操縦運動時に船舶に作用する流体力や船体・プロペラ・舵間に生じる干渉力、および船体まわりの流場を理論的に推定する方法について、その推定精度を向上させる目的で理論計算法の改良を重ねた。その結果、船体に作用する流体力に関しては、細長体理論に基づく改良した計算法によって、船尾フレームライン形状の影響を定量的に取り入れることが可能となり、計算結果は実験値と良い一致を示した。また、船体・プロペラ・舵間に生じる干渉力については、船体と舵については揚力体理論、プロペラについては簡易プロペラ理論を適用した新しい計算法によって、船体に作用する舵の干渉力およびその作用位置等が実用的精度で推定できることが明らかとなった。さらに、CFDを利用した船体まわりの流場の詳細な計算法に関しても、操縦運動時の複雑な船体まわりの流場や圧力が実験値と良い一致が得られ、この種の数値計算法が今後、操縦流体力の推定に活用できる見通しが得られた。
(3)データベースによる推定
船舶の初期計画段階では、操縦性能を簡単に推定する手法も必要である。こうした観点から、複雑な数値計算を一切行わず簡単な数式で操縦流体力を推定する手法について検討を行った。具体的には前述の拘束模型試験結果を主なデータベースとして、船体に作用する流体力の線形項の推定方法について検討を重ねた。その結果、主要目の影響は従来の井上式で表現し、船尾フレームライン形状の影響は、船尾形状を表すパラメータσaの1次式で修正するという簡単な推定式を得た。また、船尾形状を表すその他のパラメータや種々の近似式の可能性についても検討した結果、従来は全く考慮できなかった船尾フレームライン形状の影響が反映され、線形流体力の推定精度が大幅に改善できることが明らかとなった。
以上の成果を踏まえて、同一主要目で船尾フレームライン形状が異なるVLCC3船型(A、B、C船型)の操縦運動の推定を試みた。その一例として、針路安定性の違いが明瞭に判別できる定常旋回特性(通常スパイラル特性)を示す。従来の操縦運動の推定結果は図4.1に示すように、同一主要目であるためこれら3船型で大きな違いが認められないが、図4.2に示すように、船尾フレームラインの違いを取り入れることによって、スパイラル特性に現れるループ幅が模型試験結果と同程度に推定でき、推定精度を格段に向上させることができた。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION