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3 実施内容と研究成果

3.1 現状の操縦性能推定法の問題点

船の操縦性能を推定するには模型試験が最も確実な方法であるが、問題もある。例えば、自由航走模型試験は簡単に性能確認するには魅力的な方法であるが、模型と実船の尺度影響の補正が困難である。拘束模型試験法の場合、船体・プロペラ・舵に作用する流体力を計測し、数式モデルを当てはめて操縦運動方程式を解く形で性能の推定を行うので、任意の操縦運動の推定ができ、MMGモデルの確立後はこの方法が操縦性能推定の主たる地位を占めるに至った。しかし、模型による方法は船型の細部が決まった後でないと試験できないし、この方法による推定にはかなりの経験と労力を要し、経費と時間も無視できない。
そこで操縦性能を模型試験なしに推定する方法が注目され、理論的、あるいはデータベースによる経験的方法、あるいは両者を併せたような手法が検討された。まず理論的な方法は船体を矩形平板に置き換える井上の方法以後、不破による細長体理論の適用で船型要素を考慮して船体に作用する操縦流体力推定の可能性を与えるに至った。また、船体・プロペラ・舵間の干渉を推定する方法も、模型試験データの蓄積や理論的解明によって、かなり実用的になってきた。一方、データベースによる方法は、上記理論を反映しつつ、模型試験の実績を整理し、実用的な流体力推定式が井上、貴島、平野らによって提案され、船型主要目を入力データとする流体力推定法が、多方面で活用されるに至った。こうした背景から、操縦流体力を経て、操縦性能の推定を行うという試みが設計にも取り入れられ、船型主要目の操縦性能に対する影響をある程度は把握できるようになってきた。
しかし、船体流体力の理論的推定においては、特定の船型で試験結果に合うように経験的なチューニングを施す必要があり、一般船型の操縦流体力推定法として実用化をはかるには一層のブラシュアップと経験の蓄積が必要な他、データベースによる推定においても、過去の船型と異なる場合にどの程度確かな推定が可能かと言った問題が予想された。とりわけ船尾フレームライン形状や船尾プロファイルが操縦性能に及ぼす影響が大きいことは、従来から設計者によって経験的によく知られており、また操縦流体力が性能に及ぼす影響を系統的に解析した結果からも、性能推定にはこれらの影響の考慮が不可欠であることが指摘された。
そこで、操縦流体力の計測データの解析や、船体流体力の推定法の改善が本研究部会の主たる目的として登場することとなった。そのため、まず、本研究部会では同一主要目で船尾フレームライン形状が異なるA、B船型を供試船に選び種々の検討を行った。予想の通り、両船型の流体力特性、操縦性能の違いは顕著で、上記の主要目のみから流体力を求め、操縦運動を推定する従来の方法では全く両船型間の違いを反映できず、当時の操縦性推定法の問題点を浮き彫りにした。
こうした操縦推定の状況と問題点を十分把握し、本研究部会では操縦流体力の理論的推定精度の向上とデータベースの再構築に主眼を置いて研究開発を行った。この3年間にわたる検討結果は、フレームライン形状を考慮した実用に近い船体流体力の推定法の見通しを与えると共に、干渉流体力のモデル化と量的推定の他、数値流体力学的手法の有効性についても途を開きつつあると言える。続く各章では、これら本研究部会の活動で得られた成果を明確にする。

3.2 供試船の選定と実施した水槽試験

3.2.1 概要
与えられた船型の操縦性能推定という問題に対して、船体主要目の影響だけでなく、フレームライン等船体形状の影響まで精度良く評価するには、船体形状を流体力学的に表現する計算モデルが必要となる。さら

 

 

 

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