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結言

 

一般に船舶で鋼板腐食という時に、塗装の有無、大気中と海水中などの環境の違い、或いは温度差などが一緒になって論じられており、科学的な判断が乏しかった。そして腐食が年単位で進行するために、腐食の現象はこれらの因子の影響をしっかりと認識した上で把握されておらず、諸々が定量化されていないのが現状である。
船体内で最も腐食環境の厳しいバラストタンク内の構造部材の腐食による損傷の防止対策としてタールエポキシ塗料の塗装が船級協会規則により義務付けられており、建造時の下地処理や塗装工事、更に就航中の良好な保守・点検の実施が要求されている。
そこで本研究部会では研究の主眼を塗装されたバラストタンク内構造部材の腐食疲労強度に絞って研究を実施した。
本研究部会ではKA32鋼(TMCP)を使用した小型試験片により大気中と人工海水中で疲労試験を行い、塗膜の厚さ、試験温度、電気防食の影響について実験及び理論計算により研究し、さらに実構造を模擬した中型試験片を用いて小型試験片の結果の検証を行った。また中間型試験片で中型試験片の代替の可能性を検討した。
疲労強度では時間の影響が大きいので、繰り返し速度を実構造と同じく0.17Hzとした。現実に塗膜が比較的健全な期間である8年間の様子を忠実に再現するには8年間の実験期間を必要とするが、本研究では1個の実験点の最長期間は6ヶ月であった。
本研究では短い研究期間ながら、従来、ほとんど研究実績のなかった上記のようなTMCP張力鋼を用いた系統的な実験研究を行い、腐食疲労強度について以下に示すような多くの有益な成果を得た。
(1)小型試験片の母材については低応力の長寿命域では塗膜厚の増加に伴い疲労強度改善が見られたが、溶接継手部、角回し溶接継手部とも本実験のような比較的応力の高い領域では塗膜厚の増加による疲労強度の改善が明確ではなかった。
(2)電気防食が予想以上に疲労強度低下防止に有効で、低応力域では海水中の疲労強度も大気中とほぼ同等である。
(3)小型試験片、中型試験片及びその中間の形状の中間型試験片の試験結果から、ホットスポット応力を使用して腐食疲労の寿命推定が可能であることが分かった。
(4)腐食疲労のメカニズムやその他の因子について多くの知見を得た。また腐食疲労データの収集によるデータベースは今後の研究に大いに役立つものである。
(5)本研究成果を使用してバラストタンク内構造部材について、腐食疲労強度評価法を提案した。本研究では主として第1期を対象としたが、設計時に腐食疲労強度の寿命推定が可能となり、重点検査箇所の特定や保守点検の方向付けが可能となった。

 

塗装された構造部材の腐食疲労という観点から系統的な実験研究に取組み、以上の成果を得たが、腐食の問題は更に果しなく前面に広がっている。今後は合理的な船体構造設計と保守・点検技術の向上のために、数年間に渡る長寿命側の実験とデータの積重ねを行い、更に信頼性の高い腐食環境下の腐食及び疲労強度の評価法の確立が望まれる。

 

 

 

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