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4. 腐食疲労のメカニズムの研究

腐食疲労寿命の総合的な評価方法を確立する上で、腐食疲労のメカニズム及び塗膜劣化との複合メカニズムの解明は、必要不可欠である。本章では、これらの解明を目指した研究成果について述べる。

 

4.1 溶接部からの疲労き裂発生と腐食き裂発生溶接止端部には、目視で発見できないような潜在的な初期欠陥が存在し、この微小き裂が目に見える大きさになるまでに費やす時間は、部材の疲労寿命の大部分を占めると考えられている。そこで、数十μm程度の初期欠陥を起点に、工学的にき裂発生と呼べる深さ1?程度になるまでのき裂進展を、溶接ビード形状、板厚をパラメータとして検討した。
また、腐食疲労き裂の多くが、腐食ピットを起点としていることから、腐食ピットを鋭いき裂と見なして、き裂進展解析により、寿命予測する手法が提案された。
一方、供試鋼材について、大気中および海水中における疲労き裂伝播速度を測定した。その結果、海水中の伝播速度は、大気中のそれの2倍以上であることか判った。

 

4.2 腐食環境下での疲労強度シミュレーション
船舶に作用する変動荷重に関して、平穏海象と嵐海象に船舶はランダムに遭遇すると仮定した変動荷重モデルが提案されている。この変動荷重モデルに対応した腐食疲労強度シミュレーション法として、経過時間と表面状態(ピット深さ)の関係式及び、各表面状態に対するSN線図を求め、線形累積被害則を適用して、表面状態の時間変化に対応させて、疲労被害度の時間積分を行い、疲労寿命を推定する手法が提案された。

 

4.3 腐食疲労過程における塗装劣化のメカニズム
繰り返し応力状態における腐食疲労と、塗膜劣化の複合メカニズムに関する解明の試みとして、静的及び繰り返し荷重下でのタールエポキシ塗膜の吸水性の経時変化を測定した。超音波起振による高サイクルの疲労試験も併せて実施した。平坦部に比べて応力集中部では、塗膜劣化が顕著であることと、劣化速度は膜厚に依存することが判った。測定結果を図4.1に示す。
また、腐食疲労試験後の小型試験片について、塗膜断面の顕微レーザーラマン分光分析を実施した。

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図4.1 切欠疲労試験片の塗膜吸水率

 

4.4 まとめ
バラストタンクにおける腐食疲労の進行過程は、研究成果より次のように想定される。
(1)溶接部の初期欠陥や、塗膜下に残留する腐食ピットか起点となり、き裂成長が始まる。
(2)高応力部では塗膜劣化し易く、防食性が失われると、き裂進展が促進される。低応力部では塗膜劣化を生じた場合でも、腐食衰耗が支配的なため、腐食疲労とはならない。
(3)検査で発見されるまで、き裂成長し続け、最悪の場合、貫通き裂や構造破壊に至る。実用的な腐食疲労寿命予測技術を確立するためには、今後も、腐食疲労と塗膜劣化との複合メカニズム解明を目指した継続的な取り組みが必要である。

 

 

 

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