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結言

 

本研究は平成5年度より3年間に亘り、設計や保守点検及びき裂伝播の研究に携わる多くの方々の参加により実施されたものである。
本研究の始まる凡そ10年前の1980年初頭頃より、有限要素法による構造解析技術の設計への導入や省エネ要求に呼応した船体軽量化ニーズ等を背景に高張力鋼を広範囲に使用したタンカーやバルクキャリアーが建造され就航した。こうした船体構造に対して当時から疲労強度の問題が指摘され当時の技術で検討もされたが残念ながら疲労強度に起因するき裂損傷が発生したのも事実である。
疲労破壊防止対策が多くの場で議論された。しかし一方では疲労強度にあたえる因子が極めて多く複雑である事、発生したき裂の伝播の速さもまちまちである事等疲労強度評価が難しいという事もわかってきた。本研究はこうした中で船体構造の設計・検査・保守に携わる関係者の疲労き裂に対する共通認識に基づいた疲労設計法や寿命予測手法を実用化すべくその基礎研究として着手された。
本研究により第1部で述べたような「疲労き裂についての実用的知見」が明らかになるとともに第2部で解説しているような「新しい伝播解析手法」が提案できるようになった。即ち、
●溶接部からの疲労き裂が問題となる船体構造では微小き裂の発生からき裂が検査で発見できる長さ、あるいは周囲の船体構造の強度や水密性に致命的な影響を与える長さになるまで(き裂の伝播)には時間がかかる。
●その時間は荷重パターンや平均応力の影響を受ける。こうした影響も踏まえ、き裂の伝播寿命の推定ができるようになった。
●疲労き裂を出さないという曖昧な定義から検査で発見できるき裂長さまでの寿命あるいは致命的なき裂長さに至るまでの寿命といったより明確な定義で疲労破壊防止対策が考えられる基盤ができた。
といった点が本研究の成果である。
本研究の成果が船体構造の重要箇所を認識した疲労設計や就航後の点検・検査時の合理的な判断あるいは船体構造の合理的な保守計画に寄与する事を期待する。
航空機の世界では設計・整備において耐損傷設計(Damage Tolerancc Design)が実用化されている。勿論、航空機の性能要求における構造のありかたや航空機の機体に与える環境影響は船舶のそれとは異なっている。しかし検査で発見できるき裂長までの寿命やき裂の挙動及びその性格(致命的であるかないかといった)がこうした研究で明らかになれば、船舶の種類によっては検査期間等の設定とも併せ船舶版耐損傷設計の可能性もでてくる。
実用面での基盤整備あるいは将来への可能性という点から、今後実船の環境下での疲労き裂の伝播の実態がさらに調査され実船での諸因子が定量的に解明され評価ができるようになる事を併せて期待したい。

 

 

 

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