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6.パリス則/有効応力拡大係数によるき裂伝播寿命評価

 

6.1まえがき

 

線形破壊力学の体系が1950年代後半にIrwinによって確立されてからは、応力拡大係数がき裂先端の応力場を表し、エネルギー解放率とも密接な関係があることから、応力拡大係数範囲(ΔK)を、き裂の伝播速度を律則するパラメータとして採用する試みがなされ、ParisやErdoganにより次式が提案された 1)。

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式(6.1)は、一般にパリス則とよばれている。式(6.1)を積分することにより、き裂が初期長さa0から、最終長さafまで伝播するのに要する繰返し回数Nを、式(6.2)により求めることが出来る。

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パリス則に基づくき裂伝播寿命の計算は、現在広く行われているが、式(6.1)の定数C,m(特にC)は平均応力(または応力比)、残留応力、荷重変動など種々の因子の影響を受けることから、2章でも述べたように、力学的により有意なパラメータとして、き裂開閉口挙動に基づく有効応力拡大係数範囲△Keff 2)あるいは、次章で述べるRPG荷重に基づく△KRPが提案されている。
溶接継手の疲労き裂伝播寿命の推定にあたっては、溶接残留応力の影響を考慮するのに適した、ΔKeffや△KRPによる解析が有効である。
また、船体構造など溶接構造の疲労き裂の伝播寿命には、溶接止端部の局所的な応力集中や、構造的な不連続により生じる構造的応力集中が影響を及ぼす。
本章では、溶接継手に特有な溶接残留応力や局所的および構造的な応力集中を考慮にいれ、△Keffを用いたき裂伝播寿命解析を、複雑なき裂開閉口シミュレーションやK値解析を経ずに、簡便に実施する手法について検討した結果について述べる。

 

6.2有効応力拡大係数による簡便なき裂伝播寿命評価法の提案

 

有効応力拡大係数範囲ΔKeffを用いたき裂伝播速度は、式(6.3)で表すことが出来る。

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ここで、△Keff,thは、き裂進展下限界△Keffである。
疲労き裂伝播寿命は、式(6.3)を積分することにより求めることが出来る。
式(6.3)を解析的に積分することは出来ず、数値的に解くことになる。
ここでは、基本的な溶接継手である、隅肉溶接継手および角回し溶接継手について、き裂が板厚を貫通するまでの寿命を数値的に解く方法について提案をする。
図6.1に、提案する手法のフローを示す。本フローにしたがった計算の手順を以下に示す。

 

(1)計算に必要な入力データ
以下のデータを用意する。
継手形状:継手分類、主板板厚、副板板厚、副板長さ、溶接脚長

 

 

 

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